【所長へのインタビュー】加藤路瑛の小中学校時代と感覚過敏研究所を立ち上げるまでの道のり

感覚過敏研究所 所長の加藤路瑛自身が、どのように感覚過敏と出会い感覚過敏研究所を立ち上げるにいたったか?所長自身の小学校時代から現在に至るまでの「感覚過敏」の経験を、所長へのインタビューをもとにまとめました。


僕は今、感覚過敏研究所の運営をしています。この感覚過敏研究所は、父から「自分の会社を持っているなら、自分の困りごとを解決しては?」と言われたことから、自分が幼少期から悩んできた感覚過敏をテーマにすることを思いつきました。

感覚過敏とは

さて、感覚過敏とはなんでしょうか。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、嗅覚、触覚などの感覚が過敏な状態を感覚過敏といいます。たとえば視覚過敏の人は、光を普通の人が感じるよりもまぶしく感じてしまい、日中外を歩くだけで疲れてしまったり、頭が痛くなってしまう人もいます。またスマホの明かりも目に突き刺さるような痛みを感じる人など、同じ視覚過敏の人でもその症状はさまざまです。(感覚過敏の詳しい説明はコチラ:https://kabin.life/hyperesthesia

感覚過敏は病気でありません。感覚は目に見えず、他人と比較することができないため、感覚過敏で困っていることを周囲に理解されづらいという問題点があります。さらに、自分とほかの人の感じ方が違うことにもなかなか気が付けないため、自分が感覚過敏だとわかるまで時間がかかるということもあります。

はじめて僕自身が感覚過敏だと知ったのは、中学一年生のときのことです。教室のクラスメイトのしゃべり声や、授業中に誰かがペンを走らせる音で頭が痛くなるようになり、入学してすぐに保健室に行くようになりました。

 その際に、保健室の先生から「聴覚過敏なんじゃない?」と言われたのが、僕と「感覚過敏」の出会いでした。しかし、聴覚過敏とは一体なんだろう? 感覚過敏って…? 調べてみると、それまで自分がずっと抱えていた困りごとが、まさにそうだということに気が付いたのです。 

給食が食べられないことが悩みだった小学校生活

所長・加藤の通っていた小学校の実際の給食

小学生のころから給食を食べることができませんでした。給食の量や献立ではなく、給食の時間に充満するニオイを受け付けられず、気分が悪くなってしまいます。また、そこからその給食を食べなくてはいけないと考えるといつも憂鬱でした。

そんな僕に、「一口は食べなさい」という先生もいました。まわりの同級生も、「どうして食べないの?」とふしぎそうな様子です。その頃の僕は、ほかの人は普通にできることが自分にはどうしてできないんだろうという気持ちでいっぱいで、学校生活の悩みといえば給食のことばかり。

小学校五年生の修学旅行では、栄養不足と脱水症状で倒れてしまうという事件もありました。小学6年生の担任の先生はも、成長期の子どもがこれしか食べないのはダメだということで校長先生にお弁当の持ち込みを許可してもらえるよう、掛け合ってくれました。普段はとても怖い先生という印象だったのですが、同級生たちにも「加藤君は食べるのが苦手なんだ」ということをていねいに説明してくれるとともに、僕の特性をわかろうとしてくれたのがとても印象に残っています。

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中学校は給食がない学校へ

そんな小学校生活だったため、中学校はかねてより給食がない学校へ行きたいと考えていました。小学校一年生のころに、友だちのお兄さんが私立の中学校に通っていて、「うちの学校はカフェテリアがあって、自由に食べ物を選べるんだよ」と教えてくれたのがきっかけです。まだ小学校一年生でしたが、「そんな学校があるんだ! 行きたい!」と、すぐに両親にも言いました。両親も、僕の小学校での課題が、勉強でも人間関係でもなく、給食が食べられないことだとわかってくれていたので、中学受験に関しても当初は「そうなんだね」という感じでしたが、小学校四年生になっても僕の意志が固いことを知り、じゃあ中学受験をしようかという話になりました。

そうして、無事に給食がない中学校への進学が決まりました。

しかし、食べ物に関する課題は、そう簡単には解決しなかったのです。

売店とラウンジのある中学校でしたが、お昼の時間になるとみんなが教室でお弁当を食べます。給食はなくなりましたが、今度はみんなのお弁当のニオイがつらくなってしまいました。また、校庭がない学校だったため、休み時間も教室で同級生が騒いでいる音で頭痛が出るようになり、保健室の先生がこのときに聴覚過敏なのではないかと言ってくれたことで、初めて感覚が人よりも過敏な人がいるということを知りました。

感覚過敏との出会い

聴こえすぎることで頭が痛くなってしまうため、保健室の先生にデジタル耳栓をすすめてもらったのもこのころです。(デジタル耳栓は、ノイズキャンセリングのイヤホンと言えば伝わるでしょうか。ある一定の周波数を聞こえないようにすることで、周囲の環境音を聞こえないようにすることができます。たとえば、電車に乗っているときにデジタル耳栓を使うと、電車の音は聴こえなくなりますが、車内アナウンスは聴こえるなどの効果があります。残念ながら、僕の場合は人の声がくっきりと聴こえすぎてしまい、デジタル耳栓との相性はあまりよくありませんでした。)

デジタル耳栓
https://sensory.kabin.life/archives/introduce/389

すぐに、保健の先生は当時の担任の先生に、僕が感覚過敏なのではないかということを話してくれ、担任の先生から両親へも連絡があったそうです。

担任の先生は、理科の先生だったこともあり、同級生たちにも音の周波数の話などを交えてわかりやすく、僕の聴覚過敏について説明してくれました。

保健室の先生に「聴覚過敏ではないか?」と言われてすぐに感覚過敏について調べてみたところ、今までの給食やお弁当のニオイが受け付けないことも、感覚過敏によるものなのではないかということに思い当たりました。 

たとえばカレーのニオイは、普通の人にとってはいいニオイと感じるかもしれません。しかし、嗅覚過敏の人にとってはスパイス一つひとつのニオイがそれぞれとても強く感じられ、気分が悪くなってしまったりすることにつながります。食べ物の種類や、その日の体調によっても感じ方が違うため、周囲から見たらただの好き嫌いで、食べられないと言っているように見えるかもしれません。また、同じ嗅覚過敏の人でも、人によって感じ方に違いがあるため、なかなか理解してもらいづらいところがあります。

しかし、ついに中学一年生の三学期には、ほとんど学校へは行かなくなってしまいました。

中学二年生からは、通信制の中学校へ

僕が、中学一年生の12月に起業する少し前に、小中学生向けに、職業をよりよく知ることができるようにと、TANQ-JOBというメディアを立ち上げました。そのメディアで、たまたま角川ドワンゴ学園が運営するN中等部にインタビューをしたことがありました。

N中等部は、いわゆるフリースクールで僕がいたときは週1回、週3回、週5回通学するコースがありました。現在は、通学しないネットコースもできたそうです。

授業も、いわゆる国語数学理科社会といった授業の枠組みだけではなく、たとえばコミュニケーションスキルを身に着けるための授業が用意されていたり、プログラミング学習の時間が毎日あるなど、より実践的なカリキュラムが魅力です。

中学二年生の10月、僕はこの学校への入学を決めました。

僕が、この学校が良いと感じた一番の理由は、授業中みんなが指定の授業用のアプリを使って、パソコンに向かって授業を受けるため、すごく授業が「静か」なことでした。

また、入学後に事情を話したところ、昼食のときなど必要なときは個室を使ってもいいと言ってもらえたことで、かなり学校生活が楽になりました。

高校生になった今は、この中学校の系列の通信制高校に通っています。

N中等部で週5回通学していたころは、通学に片道一時間くらいかけなければいけないので、同じ電車に乗っている人の香水や柔軟剤、食べ物といったもののニオイや、街中の騒音の一つひとつにとても影響されてしまうため、途中で体調が悪くなることもありました。通信高校の完全なネットコースに在籍する現在は、学校に関する困りごとは、メールを見逃すくらいになりました。

感覚過敏研究所の発足と広がり

感覚過敏研究所を立ち上げたのは、2020年1月のことです。自分の困りごとである感覚過敏をテーマに事業を考えた際に、まずは感覚過敏についてどれだけ困っている人がいるか、SNSを通して発信したところ、想像以上に同じ悩みを抱えている人がたくさんいることを知りました。

当初、感覚過敏の悩みを抱えた当事者が25人集まりました。感覚過敏に悩む漫画家さんやデザイナーさんも参加してくださっていたことで、いっしょに感覚過敏啓発のためのキャラクターやマークを考えるなどの活動がはじまり、感覚過敏研究所を発足させることになりました。

その後すぐに、新型コロナウイルスの流行がはじまったため、今度は触覚過敏でマスクをつけるのが難しい人のためにどうしたらいいかを話し合い、マスクをつけられない理由を周囲にわかってもらうための「意思表示カード」を思いついて発表したところ、さまざまなウェブメディアに感覚過敏がどういうものなのかとともに取り上げてもらうことができました。

このほかにも、日常的につけやすい缶バッジの制作をしたり、感覚過敏の人同士がSNSで意見を出し合って考案したせんすマスクを発表したりもしています。

感覚過敏の啓発、商品サービスの企画や販売、感覚過敏の研究など、感覚過敏研究所の活動の幅はどんどん広がっています。

マスクがつけられませんのシールは航空会社のスカイマークで、せんすマスクは成田空港でも採用の実績がある。

誰もが感覚過敏の知識を得て課題解決できることを願って

感覚過敏は病気ではありません。症状だと言われています。そのため、感覚過敏かもしれないと思ったときに、まずどこに相談したらいいかを考える必要があります。感覚過敏の原因となるものも、人によって異なります。発達障害や精神疾患、事故の後遺症やなどが原因の感覚過敏の方もいらっしゃいますが、原因の特定が難しい場合もあるでしょう。また、お医者さんの間でも、感覚過敏についての定義が異なるという現状もあるようです。

幸運にも僕の場合は、感覚過敏という言葉がなくても、小学校や中学の先生が困りごとをサポートしてくださる環境でした。

また、両親も僕の音や食べ物のニオイがつらいという気持ちを否定せずに見守ってくれたことも、よかったと思っています。

しかし、感覚過敏の悩みを抱えてい方が全員、家族や学校の先生など周囲からの理解や支援をうけられるかというと現実はそうではありません。。まだまだ世の中に感覚過敏そのものが知られていないため、当事者も周囲の人もどうしたらわからないということも多いのではないでしょうか。

感覚過敏研究所では、感覚過敏の啓発、商品・サービスの企画・販売、感覚過敏の研究の3つの軸を通して、感覚過敏の課題を少しでも解決できればと思っています。

また、企業や大学機関と連携し、感覚過敏の人のための商品開発や研究なども進めています。当事者にしかわからないことを、いえ、当事者にすらわからないことを、いろいろな人に知ってもらうのは大変なことですが大切なことだとも思います。僕の困りごとの解決をしたいという気持ちからスタートした感覚過敏研究所が、同じ悩みを抱えた人から「ありがとう」と言ってもらえることにすごくやりがいを感じています。感覚過敏研究所の活動はまだはじまったばかりです。感覚過敏で困っている人が1人でも多く、やさしく穏やかな暮らしができるように、これからもがんばりたいと思います。

取材・文:吉田真奈

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