
感覚過敏にやさしい社会をつくるヒントは、海の向こうにも
今回は、イギリス在住のシェラットみほさんにご寄稿いただきました。イギリスでの子育て経験を通して見えてきた、感覚過敏にやさしい社会のあり方についてお届けします。学校や映画館など、公共の場でどのような配慮がされているのか、日本との違いにも注目です。
子どもの「困りごと」が教えてくれる、多様な感覚の世界

アメリカの幼稚園では皆と一緒にカーペットに座ることが難しく、お歌の時間には度々教室を飛び出してしまう…そんな日々を私たちは手探りで過ごしていました。「皆と同じように」ということが、思いのほか高いハードルだったのです。
その後イギリスに移住し、家から一番近い公立小学校に入学。新しい土地と文化の中で、私たちはまた、新しい一歩を踏み出すことに。そこで出会ったのは、子どもたち一人ひとりが安心して過ごせるインクルーシブな、想像以上に温かい社会でした。
感覚過敏の子も安心できるイギリス小学校とは?
イギリス政府のガイドラインや評価基準では「落ち着きがあり、安全で、支え合い、秩序が保たれた、前向きな環境」が学びに適した条件として強調されています。

言葉にするとシンプルですが、子どもたち一人ひとりがそのように感じる環境となると一筋縄には行きません。それでもその実現に向け、イギリスの小学校では様々な取り組みが行われています。私の小学生時代と比べてその差に、ただただ驚きました。
学校内で見られる工夫
センサリールームやヌーク
感覚過敏を持つ子どもたちには、静かで落ち着いた空間が必要です。センサリールームやヌーク(半個室型のスペース)は、感覚調整が難しい子どもたちが落ち着いたり安心して過ごせる場所として活用されています。

フィジェットトイ
感覚統合に課題を持つ子や感覚過敏の子どもたちが落ち着きを保つ手助けになるツールとして用意されています。軽い触感や動きが子どもの感覚を調整し、集中を促します。
イヤーマフ
音に敏感な子どもたちが静かな環境を保つのに役立ちます。特に音が過剰に刺激になる場合には、イヤーマフが音を軽減し子どもたちが落ち着いて学べる環境をサポートします。

バランスディスク
座る際の不安定さが感覚統合を促進し、子どもがより自分の身体をコントロールしやすくします。学習や作業に対する集中力を高めるのに有効とされています。
柔軟に認められる教室の出入り
子どもたちが自分の感覚の調整やニーズに応じて、教室を一時的に出たり入ったりすることが認められています。子どもたちは感覚過敏やストレスに対処しやすく、安心してそれぞれのペースで学びを続けることができます。
プレイセラピー
子どもたちの感情や行動の理解を深めるため、プレイセラピー(遊びを通じて心のケアを行う)が活用されています。この方法により子どもたちは自分の感情を表現し、社会的スキルを学ぶことができます。特別支援ニーズ(Special Educational Needs and Disabilities “SEND”)のある子どもへの支援の一環としても普及しています。

映画館や劇場でも感覚にやさしい選択肢
では、子どもたちが学校の外で出会う感覚の壁はどうでしょうか?映画館や劇場といった公共の場での取り組みにも目を向けてみましょう。
感覚過敏の子どもたちにとって、映画館や劇場は音や光など避けたいもののオンパレード。そんな課題に向きあい定期的に「リラックス上映・公演」として感覚に優しい回を設けている施設が数多くあります。初めてこの言葉を見つけ、説明文を読んだ時は感動と安心感で胸が熱くなりました。

実際にどんな配慮がされているのか、映画館・劇場それぞれで紹介します。
映画館での配慮一例
- 上映中の音量を下げる
- 照明を完全には消さずに少し明るく
- 予告編や広告なしで映画を上映
- 観客は自由に席を移動したり、必要に応じて出入りOK
実施している映画館の公式情報ページ
- Vue(ビュー)
- Picturehouse(ピクチャーハウス)
- ODEON Cinemas(オデオン シネマズ)
- Showcase Cinemas(ショーケース シネマズ)
- Everyman Cinemas(エブリマン シネマズ)
- Cineworld(シネワールド)
劇場での配慮一例
映画館同様、照明や音響、出入りの自由などの配慮に加え、複数の劇場が「チルアウトスペース(Chill-Out Space)」と呼ばれる、日本の「カームダウンスペース」にあたるリラックスできるエリアを設けています。
実施している劇場・団体の公式情報ページ
- Unicorn Theatre(ユニコーン シアター)
- Sheffield Theatres(シェフィールド シアターズ)
- Disney Theatrical Productions(ディズニー シアトリカル プロダクションズ)
- Royal Shakespeare Company(ロイヤル シェイクスピア カンパニー)

これらの取り組みがあることで、通常の回に難しさを感じる人たちが安心して家族で出かけることができたり、文化に触れるための入り口になっています。
感覚の違いに気づいた今、できることから始めよう
ここまでイギリスの事例をお伝えしてきました。
小学校のクラス運営方法や、映画館や劇場の規模など、単純に日本とイギリスで比較できないことも承知しています。イギリスもまた、特別支援ニーズ(SEND)のある子どもへの支援において発展途上にある面もあります。
それでも、住む場所や国籍に関わらず、感覚過敏や特別なニーズを持つ子はもちろん、誰もが安心して生活を送れる環境づくりはどの社会においても共通の大切なテーマです。私自身、その実現に向けた取り組みの価値をあらためて感じています。
今回ご紹介したイギリスでの取り組みが、日本やご家庭での環境づくりにおいて何かヒントになれば嬉しく思います。これからも子どもたちが安心して過ごせるインクルーシブな社会に向けて、そして何よりも親として子どもが安心できる存在であり続けたいという思いを胸に、学びを重ねていきたいです。
