国土交通省は、すべての建築物が利用者にとって使いやすいものとして整備されることを目的に、バリアフリー設計のガイドラインとして「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(以下「建築設計標準」)」を策定しています。
バリアフリー法において、便所、劇場等の客席及び駐車場について建築物に関するバリアフリー基準が改正されたことを踏まえて、学識経験者、障害者・高齢者団体等から構成される検討会で検討され、2025年5月30日に建築設計標準が改正されました。
参考:高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準全文(国土交通省)
このページでは、建築設計標準に盛り込まれた、感覚に配慮した施設・建物の基準について解説します。建築や空間デザインの専門家や、施設運営者にとって重要なポイントをお伝えします。
感覚にやさしい空間設計における建築設計標準改正ポイント
ポイント①対象建築物は全て
建築標準設定では対象となる建築物を最初に定義しておりますが、基本的には全ての建築物・施設を対象としています。

- 全ての人に使いやすい建築物とは、全ての人が利用しやすいことを目標として整備された建築物のことである。
- 公共施設、民間施設を問わず、また働く場であるか、遊ぶ場であるか、学ぶ場であるかを問わず、地域に存在する大半の建築物で、全ての人に使いやすい建築物を目指す必要がある。
- 建築物の整備において、全ての人の公平な利用に供することは容易なことではないが、建築主・施設管理者・施設運営者、設計者、施工者、行政等の様々な人々が、それぞれの立場で協力し合い、全ての人に使いやすい物理的環境の整備を図ることが求められる。
- また、全ての利用者にとって使いやすい建築物を整備するためには、建築プロジェクトの各段階において当事者参画(施設利用者が意見表明すること、高齢者や障害者等の当事者が検討会やワークショップ等に参加すること等を通じて、建築プロジェクトの整備・運営の完成度を高めることに関与すること)を行うことが有効である。
ー高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準より抜粋
ポイント②バリアフリー法の対象は、精神障害者及び発達障害者も含む
バリアフリー法は身体障害や高齢者を対象にしているイメージがあるかもしれませんが、知的障害者、精神障害者及び発達障害者も全てバリアフリー法に基づく施策の対象とされています。

参考:バリアフリー法における、高齢者、障害者等の定義
- バリアフリー法における、「高齢者、障害者等」は、「高齢者又は障害者で日常生活又は社会生活に身体の機能上の制限を受けるもの、その他日常生活又は社会生活に身体の機能上の制限を受ける者をいう。」とされており、妊産婦、けが人等、一時的に制限を受ける人々や、身体の機能上の制限を受ける障害者に限らず、知的障害者、精神障害者及び発達障害者も全てバリアフリー法に基づく施策の対象とされている。
ー高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準より抜粋
ポイント③カームダウン室やセンサリールームの設置が留意点として記載
知的障害者、発達障害者、精神障害者への留意点として、カームダウン室やセンサリールームの設置について明文化されました。

留意すべき主な事項
- 一人で静かに過ごせる場(外部からの音や光が遮られ、騒音の低減と響きの抑制が図られたカームダウン室)の設置
- 周囲の人を気にせずに観劇・観戦できる場(遮音性のある区画された客席(センサリールーム等))の設置
ポイント④遮音・吸音の実施
建築物に共通する計画・設計の考え方の項目に、必要に応じて遮音・吸音を行うことが記載されました。

遮音・吸音に関する記述
・案内カウンター等の付近では、騒音の低減と響きの抑制に必要な遮音・吸音を行う。
・利用居室では、利用者のニーズ・室の用途に応じて、騒音の低減と響きの抑制に必要な遮音・吸音を行う。
ポイント⑤劇場・競技場の標準設計にセンサリールーム
劇場・競技場の客席全体の設計標準として、乳幼児連れ、知的障害者、発達障害者、精神障害者等の多様な利用者に配慮し、気がねなく観覧できる区画された客席(センサリールーム等)を設けることが明記されました。

感覚過敏研究所・所長 加藤のレビュー
カームダウンスペースやセンサリールームの啓発、普及、政策提言を行っている感覚過敏研究所に嬉しいニュースが飛び込みました。それが、2025年5月30日に改正された高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準です。
改正にあたり、有識者、当事者、支援者を含む検討会議が複数回開催されており、その議事録も全て公開されています。カームダウン・クールダウンスペースに関する提案もなされ、少しずつですが感覚にやさしい社会が進んでいる手応えを感じておりました。

今回の改正ポイントでの大きな一歩としては、全ての建築物を対象にカームダウン室やセンサリールームの設置が発達障害や精神疾患の人々への留意点として法律に明記されたことです。義務化ではありませんが、大きな前身です。
さらには、劇場や競技場には安心して鑑賞・観戦できるセンサリールームなどの区切られた客室を設けることが建築物の標準設計に明記されました。今後、改修・新築する施設には、センサリールームが作られることになります。
また、施設の案内所などには遮音・吸音することも記載されました。これによって、係員との会話が聞き取りやすくなる方々もいらっしゃるでしょうし、商業施設などの騒がしさ(環境音・BGM)がつらかった人も過ごしやすくなるでしょう。
感覚への配慮は、目に見えない課題のため、なかなか社会の枠組みとしての支援が広がらない部分です。また、理解はできても施設にとって予算化する合理性が見えづらく新築計画に盛り込みにくい部分でした。しかし、この法改正によって、着実に感覚にやさしい社会に近づきます。
感覚過敏研究所にご相談ください
建築設計標準に沿った感覚に配慮した施設設計や運営について相談したい方は、感覚過敏研究所でさまざまなご提案ができますのでお声がけください。
- 建築設計標準に沿った感覚に配慮した施設設計や運営の社内勉強会
- 各種カームダウンスペースのご提案・販売・アドバイス
- イヤーマフやセンサリートイの入ったセンサリーバッグの提供
- センサリールームやカームダウンスペースの監修
- スヌーズレン関連機器の販売・提案
- 施設内センサリーマップの作成
私たちの得意なこと
感覚過敏研究所の取り扱い事例(一部)
- 東京国立博物館様
- 東京都美術館様
- 東京都現代美術館様
- 上野動物園様
- 東京大学・先端科学技術研究センター様
- 東京科学大学様
- イオンファンタジー様
- レゴランド様
- 大阪・関西万博/大阪ヘルスケアパビリオン様
- 大阪・関西万博/Yogibo提供カームダウン・クールダウンルームのアドバイザーチーム
など。その他、保育園、小学校、特別支援学校、福祉施設などへの導入支援を行なっています。






