感覚過敏の人や家族にやさしい動物園・水族館づくりに向けたアンケート調査報告

1. はじめに

近年、インクルーシブな社会の実現に向けて「感覚にやさしい環境づくり」が注目されています。その取り組みは水族館や動物園にも広がっています。

2025年11月に開催された公益財団法人東京動物園協会主催「第6回教育普及シンポジウム」では、「動物園・水族館のアクセシビリティを考える」をテーマに、感覚過敏研究所・加藤が登壇し、当事者視点から困りごとや要望をお話しさせていただきました。

より良い講演内容にすべく、感覚過敏研究所では、感覚過敏のある方が動物園・水族館を利用する際の課題を把握し、感覚にやさしい動物園・水族館づくりに役立てることを目的にウェブアンケートを実施し、その結果をシンポジウムでお伝えさせていただきました。

今回は、感覚過敏の当事者・ご家族157名を対象としたアンケート調査結果をシンポジウムの資料も使いながら報告させていただきます。

2.回答者の属性と施設でのつらい経験の実態

本調査の詳細な結果を見ていく前に、まずは回答者の属性と、動物園・水族館における実際の体験について整理します。

回答者の属性

図1 回答者の属性(当事者・ご家族など)n=157

アンケート回答者157名のうち、感覚過敏の当事者(本人)が59.9%(94名)、ご家族が40.1%(63名)という内訳になりました。

回答者の属性

図2 回答者・家族の感覚特性(複数回答)n=157

その他属性

図3 その他属性

水族館や動物園も障害者手帳をお持ちの方に入園割引をしていることが多いので質問に含めました。持っていない方の方が多いことがわかります。

動物園・水族館で「つらい・困った」と感じた経験

図2 動物園・水族館で「つらい・困った」と感じた経験の有無(当事者・ご家族など)n=157
図4 動物園・水族館で「つらい・困った」と感じた経験の有無(当事者・ご家族など)n=157

「過去に動物園や水族館で、音や光、ニオイなどの環境によってつらい・困ったと感じた経験はありますか?」という設問に対し、全体の86.0%が明確に「ある」と回答しました。さらに、自由記述での具体的なエピソード(「動物のニオイがつらかった」「トイレへの恐怖があった」等)を含めると、実質的に約88.5%(139名)もの方が、来場時に何らかの環境的なハードルに直面している事実が明らかになりました。

3.アンケートに表れた来場を諦める理由と求められている環境配慮

動物園・水族館への来場をあきらめた経験

図3:来場をあきらめた経験(構成比)n=157
図5 来場をあきらめた経験(構成比)n=157

アンケートの結果、感覚過敏が主な理由で動物園や水族館へ行くことをあきらめた経験があると回答した方は、全体の52.2%に上りました。

障害者手帳の取得の有無による「来場をあきらめた経験」の比較

障害者手帳を持たない方であっても約半数(49.5%)が来場をあきらめていることがわかりました。

図4:手帳の取得の有無による「あきらめた経験」の比較 (n=157)
図6 手帳の取得の有無による「あきらめた経験」の比較 (n=157)

この結果から、障害者手帳の有無にかかわらず、感覚の過敏さがあること自体が来場における大きな障壁となっていることが分かりました。車椅子のスロープや多目的トイレといった従来の物理的なバリアフリーだけではカバーしきれない、外見から見えにくい困難を抱えている方々が数多く存在しています。

一方で、音・光への配慮や休憩場所の確保といった取り組みがあれば、全体の71.0%が「行く頻度が増える」と回答しています。少しの環境配慮や工夫があるだけで、より多くの人が安心して施設を楽しめるようになることがデータからも示されています。

4.どのような刺激が来場のハードルとなっているのか

施設において、具体的にどのような配慮や工夫ができるかをともに考えるためのヒントとして、当事者が「つらい・困った」と感じる刺激をまとめました。

動物園・水族館でつらかった刺激(ランキングトップ5)

図5:動物園・水族館でつらかった刺激(ランキング トップ5)n=157
図7:動物園・水族館でつらかった刺激(ランキング トップ5)n=157

具体的にどのような刺激が来場の壁となっているのかを見ていくと、当事者が「つらい・困った」と感じる刺激の第1位は「混雑や人の会話でザワザワした感じ(111票)」、次いで「ショーやイベントのマイク・スピーカー音(76票)」「動物や魚のニオイ(74票)」となりました。

 施設全体を常に静かに保つことは現実的ではありませんが、特定の「音響・ニオイ」が明確なハードルになっているからこそ、大音量のショーが行われるエリアから少し離れた場所に退避スペースを設けるなど、特定の刺激から離れられるピンポイントな配慮があるだけで、当事者やご家族の大きな安心感につながることが分かりました。

5. 当事者の生の声

自由記述に寄せられたエピソード(生の声)から、特徴的なキーワードを抽出して視覚化しました。

(※注釈:以下の図は「ワードクラウド」と呼ばれ、文字が大きいほど、アンケートの回答(自由記述)の中で多く言及された言葉であることを示しています)

図8  自由記述による当事者の声(ワードクラウド)

図を見ると、特に「ショー」「照明」「アナウンス」といった言葉が大きく浮かび上がっていることが分かりました。

数字だけでは見えてこない、当事者やそのご家族が施設で実際に直面している「見えないバリア」のリアルな実態を知るために、寄せられた切実な声(エピソード)を分類してご紹介します。

当事者・ご家族からの声

図9  水族館・動物園で感覚刺激としてつらく感じたエピソード1
図10  水族館・動物園で感覚刺激としてつらく感じたエピソード2

感覚特性によるバリアの違い(動物園と水族館の比較

皆さまから寄せられた切実な生の声からは、同じレジャー施設でも、屋外を中心とした動物園と、屋内を中心とした水族館では、当事者を悩ませる環境のハードルが大きく異なることが見えてきます。

 環境バリアの整理と対策
動物園と水族館のちがい
図11 動物園と水族館の比較

たとえば屋外の広大な動物園では、動物のニオイや気象の影響、そして予測できない周囲の歓声がハードルになります。ここには、空調や換気が整い、外の刺激をしっかりと遮断できるカームダウンスペースのような静かな逃げ場を設けることが、大きな安心につながります。

一方、屋内で閉鎖的な水族館では、館内に反響するアナウンスやマイクの音、暗闇と水槽の強い光のコントラスト、そして一度入ると逃げ場のない一方通行の順路が負担になりがちです。ここでは、順路の途中からスッと抜け出せるエスケープゾーンを作ったり、照明のトーンを落とした静かな休憩エリアを設けるといった、過剰な刺激を引き算するデザインが求められます。

このように、それぞれの施設の特性に合わせて、刺激から一時的に離れられる安全基地を整えることは、当事者やご家族の不安を大きく和らげることにつながります。

では、実際に当事者やご家族は、施設に対して具体的にどのような配慮やサービスを望んでいるのでしょうか。ここからは、アンケート結果から見えてきた希望する配慮のランキングと、大規模な改修工事を伴わなくても今すぐ始められる工夫について、さらに具体的な声とともに見ていきます。

6. 当事者が求める配慮と今からできる工夫

施設に求める配慮・サービス(トップ5) 

図6:施設に求める配慮・サービス(トップ5)n=157 
図12 施設に求める配慮・サービス(トップ5)n=157 

これらの課題に対し、当事者・家族が最も希望する施設のサービス第1位は「カームダウンスペース(74.5%)」でした。次いで「ベンチ等の休憩場所(67.5%)」「職員の理解(55.4%)」と続きます。また、「刺激の少ないルートマップ(感覚マップ)」や「クワイエットアワーの導入」を求める声も4割を超えました。

では、当事者やご家族は具体的にどのような工夫を求めているのでしょうか。アンケートには、施設を安心して楽しむための切実な声や、具体的なアイデアが数多く寄せられました。

カームダウンスペースや休憩場所の要望やアイデア

音・照明の調整(クワイエットアワーなど)/マップや事前情報の提供

すぐに新しい空間(カームダウンスペース)を設置することが難しい場合でも、大規模な改修工事を伴わないソフト面の対策で解決できる課題も多くあります。

刺激の強いエリアと静かなエリアを可視化したマップ(感覚マップ)をウェブサイトに掲載したり、週に数時間だけ館内のBGMや照明を落とす時間(クワイエットアワー)を設ける、あるいは大きな音が鳴る前の事前アナウンスを徹底するなど、今ある環境の中で少しずつ始められる工夫を取り入れるだけでも、当事者やご家族にとって安心して足を運ぶための大きな後押しとなります。

7. おわりに ともに考える、誰もが心地よい空間づくり

動物園・水族館における感覚過敏の課題は「音・光・ニオイ」の複合的なものであり、そのすべてを施設全体から排除することは困難です。本アンケートからは当事者や家族から「カームダウンスペースの設置」を中心に感覚に配慮した空間づくりやサービスの要望やアイディアが寄せられました。

施設内に環境刺激を遮断・回避でき、安心して落ち着ける場所があること、また施設側が感覚に配慮した空間やサービスづくりに取り組んでいる姿勢が伝わることは、当事者や家族に大きな安心感をもたらします。本調査は、このような安心感が「行ってみたい」「行けるかもしれない」といった前向きな気持ちを生み出し、外出の選択肢を広げる重要な要素であることを示しました。

動物園や水族館は、子どもだけでなく、あらゆる年代の人が楽しみや学びを得られる場であってほしいと考えます。しかし、感覚過敏のある方やそのご家族の中には、外出やレジャー、さらには余暇そのものを諦めざるを得ない状況に置かれている方も少なくありません。こうした方々が安心して訪れ、同じ時間と体験を共有できる環境が整うことは、生活の質(QOL)を高め、人生をより豊かにすることにもつながります。

感覚過敏の視点を取り入れた空間デザインは、特定の誰かのための特別な配慮ではなく、誰もが同じ空間を共有し、体験を楽しむための社会的基盤です。

本アンケートに寄せられた声がきっかけとなり、感覚過敏のある人にも開かれた「やさしい施設」が社会の中に広がっていくことを心から願っています。感覚過敏研究所としても、必要に応じて知見の提供や取り組みへの協力を行い、誰もが笑顔で楽しめるレジャー体験の実現に向けた支援を続けていきたいと考えています。

水族館・動物園関係者からのご相談も受け付けています。

カームダウンスペースやセンサリーバッグの提案や販売、 クワイエットアワーやセンサリーマップの導入支援を行っています。

感覚過敏のある方やご家族が、日常生活だけでなく、人生を豊かにできる外出や経験、社会参画ができる社会を目指します。

【企画・調査・発行】
感覚過敏研究所(運営:株式会社クリスタルロード) 代表:加藤路瑛

※共同研究・実態調査のご依頼、および本データ引用に関するお問い合わせは当研究所までご連絡ください。

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