1. はじめに
近年、インクルーシブな社会の実現に向けて「感覚にやさしい環境づくり」への関心が高まっています。感覚過敏研究所では、感覚過敏当事者やご家族の声を社会に届けるために、さまざまなアンケート調査を実施しています。
今回は、「感覚特性のあるかたのショッピングモールの困りごと」をテーマに、アンケートを実施しました。感覚過敏の当事者やご家族278名を対象に実施したアンケート調査の結果をもとに、感覚特性のある方がショッピングモールで感じる困りごとや、求められている配慮についてご報告します。
アンケート概要
【募集期間】2026年5月16日〜6月14日
【対象】
・感覚過敏の自覚のある方とそのご家族
【目的】
・商業施設での困りごとの把握
・商業施設への要望の収集
【回答数】278名
2.回答者の属性と施設でのつらい経験の実態
本調査の詳細な結果を見ていく前に、まずは回答者の属性と、ショッピングモールの利用頻度について整理します。
当事者/家族、性別について

アンケート回答者278名のうち、感覚過敏の当事者(本人)が66.5%(185名)、ご家族が32.7%(91名)という内訳になりました。また性別の内訳では、女性が83.5%(232名)を占めました。
年代

感覚過敏当事者の年代では、10代が30.2%と最も多く、次いで20代が18.0%、30代が17.6%、40代が15.8%となりました。
なお年代については、回答者本人ではなく、感覚過敏当事者の年齢を尋ねています。そのため、保護者が回答する場合は、お子さまの年齢を入力していただいています。
回答者の属性

あてはまる感覚特性としては、視覚過敏が66.2%(184名)、聴覚過敏が92.8%(258名)、嗅覚過敏が60.8%(169名)、味覚過敏が37.8%(105名)、触覚過敏が51.1%(142名)となりました。
これまで実施してきたさまざまな調査でも、感覚過敏の割合はおおむね同様の結果となっています。また、特定の感覚にのみ過敏さがある人もいれば、複数の感覚に過敏さがある人もいます。
これらの数値は、単に感覚の過敏さを示すだけでなく、日常生活における困りごとが顕在化している割合とも捉えられます。
その他属性

こちらは自由回答として、診断名などがあれば回答いただきました。ASD(自閉スペクトラム症)の診断がある人が58.9%と最も多くなっていますが、ひとくちに感覚過敏の当事者といっても、診断名や併存する疾患や障害はさまざまです。
ショッピングモールに行く頻度

ショッピングモールを訪れる頻度はさまざまで、毎日行く方もいれば、ほとんど行かない方もいます。全体では、月に1~3回訪れる方が50.3%と、半数の方が毎月利用されていることが分かりました。
3.商業施設に行くことを諦めた理由と求められている環境配慮
感覚過敏が主な理由で、商業施設に行くことを諦めた・行かなかった経験

感覚過敏が主な理由で、商業施設に行くことを諦めたり、行かなかったりした経験がある方は、67.6%(188名)でした。
商業施設で「つらい・困った」と感じた経験

「商業施設に行った時に、感覚的に「つらい」「困った」と感じたことはありましたか?」という設問に対し、全体の98.6%(274名)が明確に「ある」と回答しました。
辛かった・困った刺激

商業施設でつらかったことや困ったこととしては、「混雑」が81.7%(227名)、「人の会話や雑踏のザワザワした音」が80.9%(225名)と、特に高い割合となりました。
次いで、「休める場所が少ない」が57.6%(160名)、「照明」が51.4%(143名)、「店内BGM」が49.3%(137名)、「ディスプレイ(デジタルサイネージ)の明るさや音」が48.9%(136名)、「コスメ関連のニオイ」が47.5%(132名)、「館内アナウンス」が45.0%(125名)となっています。
また、「飲食店などの食べ物のニオイ」と「同行者に迷惑をかけてしまう」は、いずれも30.9%(86名)でした。
自由記述欄から見えた、つらさや困りごとにつながるさまざまな刺激
【音】
・子供の声:7
・ゲームコーナー:3
・トイレ(ジェットタオル):3
・店員や催事のよびかけ:2
・モスキート音:1
・エスカレーターの注意アナウンス:1
【ニオイ】
・トイレのニオイ:3
・従業員やお客さんの柔軟剤のニオイ:4
・消毒のニオイ 2
・食品売り場の食べ物のニオイ:1
・喫煙所から漏れるニオイ:1
【視覚】
・店内のカラフルなポップ:1
・情報の多さ:2
・他者からの視線:1
・床や壁が白いと眩しい:1
苦痛や疲れを感じる場所

ショッピングモールで苦痛や疲れを感じる場所として特に多かったのは、「ゲームセンター付近」が67.3%(187名)、「フードコート・レストラン」が64.7%(180名)、「通路」が64.4%(179名)でした。
自由記述欄では、「喫煙所付近」「化粧品売り場」「イベントエリア」「レジの音」「家電コーナー」「出入り口」なども挙げられており、ショッピングモール内のさまざまな場所で苦痛や疲れを感じていることが分かりました。
4.どのような刺激が来場のハードルとなっているのか
ショッピングモールにおいて、具体的にどのような配慮や工夫ができるかをともに考えるためのヒントとして、当事者が「つらい・困った」と感じる刺激をまとめました。
音

・BGM・音楽 (66件):
店内の音楽やBGMの音量、複数の音が混ざることへの苦痛が多く挙げられています。
・フードコート (55件):
多くの人が集まる場所特有の騒がしさや、食器の音などが刺激となっているようです。
・子供の声・泣き声 (52件):
突然の大きな声や泣き声に驚いたり、ストレスを感じるという意見が目立ちます。
・ザワザワ感・雑踏 (49件):
特定の音だけでなく、空間全体の騒がしさ(人混みの音)がつらいという回答が多く見られました。
・話し声・会話 (46件):
周囲の話し声が気になり、集中できなかったり疲弊したりする状況が伺えます。
・アナウンス・放送 (36件):
館内放送や呼び出しの音が大きく、不意に鳴ることでパニックや不快感に繋がることが指摘されています。
生の声
スーパーに寄って帰りたくても、食品ゾーンの近くに来るとここは嫌と入れません。
休むとこ、静かな所がなく、食品の買い物を待っている間は仕方なく階段の踊り場にいると、モールの警備員の方に注意されるようです。
・BGMと人混みのうるささが合わさって何も考えられなくなる。
光

・全体的な照明の明るさ・眩しさ (96件):
館内全体の照明が非常に強く、サングラスが必要なほど眩しく感じることや、過度な光量によって頭痛や疲労を引き起こすという声が最も多く寄せられています。
・照明の色味(白すぎる、LED等) (41件):
青白いLED光や蛍光灯の刺すような光、また壁や天井が白一色であることによる視覚的な圧迫感や不快感が指摘されています。
・デジタルサイネージ・モニターの光 (26件):
広告用モニターや案内板の光が強く、動きのある映像による過度な視覚刺激で目が疲れる、または直視できないといった意見があります。
・床や壁、商品への反射・照り返し (20件):
光沢のある床材や鏡、ガラス、商品のパッケージに照明が反射し、多方向からの照り返しによって歩行が困難になる、あるいは気分が悪くなるケースが見られます。
・チカチカ・点滅する光 (16件):
ゲームセンターの装飾や特定の店舗照明がチカチカと点滅することによる視覚的な不快感や、体調不良への懸念が報告されています。
生の声
なのでいつも車椅子を利用してます(5歳児です)
・元々照明が明るめな上に床や壁まで白系の色にされると上を見ても下を見てもどこもかしこも眩しくて目が痛くなる。
雨が降って床が濡れてる時は余計に辛い。頭が痛くなる。
帰りはいつもイライラして、すぐに帰りたいと怒ります。
ニオイ

・最も多い要因:コスメ・化粧品(71件)
「コスメ売場の近くを通るだけで気分が悪くなる」「化粧品特有の強い香りが密集していて避けて通る」といった回答が非常に多く見られました。
・食事関連:飲食店・フードコート・食べ物(52件)
「フードコートで様々な食べ物の匂いが混ざるのがつらい」「特定の飲食店(ピザやニンニク料理など)の匂いが漂ってくるのが苦手」という声が目立ちます。
・強い芳香:香水・フレグランス(49件)
「香水ショップや、すれ違う人の香水の匂いで頭痛がする」など、人工的な強い香りに対する過敏さが伺えます。
・生活臭・化学物質:柔軟剤・洗剤(24件)
「他人の服から漂う柔軟剤の匂いがきつい」といった、近年問題となっている「香害」に関する指摘も多く含まれていました。
生の声
5. 当事者が求める配慮と今からできる工夫
ショッピングモールで「感覚にやさしい」と感じた配慮やサービス
具体的な施設名やサービスを挙げていただき、ショッピングモールで「感覚にやさしい」と感じた配慮やサービスについて尋ねました。音や照明が落ち着いていることや、静かに休める場所が多いことが、感覚にやさしいと感じられる主な特徴として挙げられました。
ショッピングモール内での休憩方法

ショッピングモール内での休憩方法として特に多かったのは、「通路にある椅子に座る」169名(61.5%)、「椅子がなくても人が少ない場所に移動する」131名(47.6%)、「外に出て休憩する」109名(39.6%)でした。
また、自由記述欄では、休憩せずにそのまま帰宅するという方も7名いらっしゃいました。そのほか、車に戻って休憩する方や、階段の踊り場、本屋、紳士服売り場など、自分が過ごしやすいと感じる場所で休憩する方もいらっしゃいました。
あったら嬉しい配慮やサービス

ショッピングモールに求める配慮として特に多かったのは、「カームダウンスペース」202名(72.7%)、「ベンチなど座れる場所を増やしてほしい」173名(62.2%)、「吸音材を使用して反響しにくくする」153名(55.0%)でした。
また自由記述欄では「ゲームセンターはパチコン屋のように壁を作ってほしい」「トイレのハンドドライヤーをなくしてほしい」「男女別のカームダウンスペースがほしい」「従業員の衣服のニオイが気になるので柔軟剤を使わないでほしい」といった意見が寄せられました。
それぞれの項目ごとの求められている工夫について

1. 音環境に関する工夫(約49件)
・BGM・アナウンスの音量低減:「BGMや館内放送の音量を全体的に下げてほしい」「常に音楽を流すのではなく、無音の時間やエリアを作ってほしい」
・音の種類の配慮:J-POPなどの激しい曲ではなく、「ボサノバや環境音など落ち着いた音楽にしてほしい」「歌無しの曲にしてほしい」
・ゲームセンターへの対策:音が漏れないように防音壁を設置する、または入り口を狭くするなどの工夫が求められています。
2. 空間・レイアウト(ゾーニング)に関する工夫(約35件)
・香りの強い店の隔離:コスメ、香水、石鹸(LUSHなど)、芳香剤を扱う店舗など「ニオイのゾーニング」を求める声が強くあります。
・床や壁の色の工夫:光の反射を防ぐため、「床を真っ白でツルツルした素材ではなく、グレーや暗めの色、カーペット素材にしてほしい」「壁も真っ白ではなくクリーム色が目に優しい」といった視覚的刺激を抑える建材への要望・
3. 光・照明に関する工夫(約32件)
・照度の調整:全体的な照明を少し暗くする、または「白色LEDではなく暖色系(オレンジ系)の照明を採用してほしい」という意見が目立ちます。
・デジタルサイネージの制限:電子看板が眩しすぎるため、「輝度を落とす」「動きの激しい動画ではなく静止画にする」「設置数を減らす」など
4. 休憩場所・カームダウンスペース(約30件)
・ベンチの増設と環境:「すぐに座れるベンチを増やしてほしい」という声に加え、「通路のど真ん中ではなく、少し薄暗くて人通りの少ない静かな場所に設置してほしい」という要望が多いです。
・カームダウンスペースの設置:音や光、視線を遮断してパニックや疲労から回復できる「半個室」や「カームダウンルーム(静かに休める部屋)」の導入が強く望まれています。
5. ソフト面・システム・啓発(約35件)
・クワイエットアワーの導入:曜日や時間を決めて、照明や音量を落とす「クワイエットアワー」を定期的に実施してほしいという声が多数あります。
・センサリーマップの提供:どこがうるさいか、どこに行けば静かに休めるか、香りの強い店はどこか等が事前にわかる「感覚過敏用マップ」の提供や、アプリでの混雑状況の可視化が求められています。
・周囲への周知・啓発:イヤーマフやサングラスを着用していることへの一般客の理解促進(ポスター掲示など)や、従業員向けの感覚過敏に関する研修を望む声
生の声

また、こうした配慮や取り組みが実施された場合、203名(73.0%)が「ショッピングモールに行く頻度が増えそう」と回答しており、感覚に配慮した環境づくりが利用のしやすさにつながることがうかがえます。
7. おわりに ともに考える、誰もが心地よい空間づくり

ショッピングモールにおける感覚過敏の困りごとは、音・光・ニオイ、人混みなど、複数の刺激が重なることで生じています。これらの刺激を施設全体からすべて取り除くことは現実的ではありません。しかし、本アンケートには、刺激を減らす工夫や、つらくなったときに休める場所、事前に施設内の環境を把握できる情報提供など、さまざまな要望やアイデアが寄せられました。
回答者の98.6%が、ショッピングモールで感覚的なつらさや困りごとを感じた経験があると回答しています。また、67.6%が、感覚過敏を理由に商業施設へ行くことを諦めたり、行けなかったりした経験があると回答しました。ショッピングモールが、感覚過敏のある方にとって気軽に利用できる場所とはなっていない現状がうかがえます。
一方で、回答者の73.0%が、アンケートで挙げられたような配慮や取り組みがあれば、ショッピングモールへ行く頻度が増えると思うと回答しました。施設内に音・光・視線などの刺激を避けて安心して休める場所があることや、クワイエットアワー、センサリーマップなどの取り組みがあることは、当事者や家族に大きな安心感をもたらします。その安心感が、「行ってみたい」「ここなら買い物ができるかもしれない」という前向きな気持ちにつながります。
ショッピングモールは、生活に必要なものを購入するだけでなく、食事や余暇を楽しみ、家族や友人と時間を過ごす場所でもあります。しかし、感覚過敏のある方やそのご家族の中には、必要な買い物を短時間で済ませたり、家族との外出を諦めたりせざるを得ない方もいます。安心して買い物や食事を楽しみ、同じ時間と体験を共有できる環境が整うことは、外出や社会参加の選択肢を広げ、生活の質(QOL)を高めることにもつながります。
感覚過敏の視点を取り入れた空間やサービスは、特定の人だけのための特別な配慮ではありません。音量や照明を見直すこと、静かに休めるベンチを設けること、混雑や刺激に関する情報を事前に伝えることは、子どもや高齢者、体調のすぐれない方など、多くの人にとって過ごしやすい環境づくりにもつながります。
本アンケートに寄せられた声がきっかけとなり、感覚過敏のある方にも開かれた「やさしいショッピングモールや商業施設」が社会に広がっていくことを願っています。感覚過敏研究所としても、必要に応じて知見の提供や取り組みへの協力を行い、誰もが安心して買い物や外出を楽しめる環境の実現に向けた支援を続けていきます。
ショッピングモール・商業施設関係者からのご相談も受け付けています
感覚過敏研究所では、カームダウンスペースやセンサリーバッグの提案・販売、クワイエットアワーやセンサリーマップの導入支援、施設内の感覚環境に関する調査・助言などを行っています。
感覚過敏のある方やそのご家族が、日常生活に必要な買い物だけでなく、家族や友人との食事、余暇や外出を安心して楽しみ、人生を豊かにする経験や社会参加ができる社会を目指します。
【企画・調査・発行】
感覚過敏研究所(運営:株式会社クリスタルロード) 代表:加藤路瑛
※共同研究・実態調査のご依頼、および本データ引用に関するお問い合わせは当研究所までご連絡ください。
