感覚過敏研究所 応援隊の岩間祥泰です。
第1回目のコラムでは、人工光に関わる代表的な視覚ノイズとして、「スペクトル」「時間変動」「色の再現」の3つを取り上げました。
今回からは対象を少し広げ、明暗差や反射、色、情報量など、生活空間の中にあるさまざまな視覚的負荷を取り上げます。大学院で制作した「視覚過敏の方のための環境ガイドライン」をもとに、日常で実践しやすい形でご紹介していきます。第2回は、第1章「明るさ・輝度」です。
ここでいう「輝度」とは、照明器具や壁、机、画面などが、目にどのくらい明るく見えているかを表すものです。大切なのは、部屋全体を一律に暗くすることではありません。視野の中にある、極端に明るい部分と暗い部分の差を小さくすること。
それが、今回の中心となる考え方です。ガイドラインでは、視野内の輝度差、影、グレアを抑え、視線を動かしたときの順応を穏やかにすることを、第1章の目的としています。
「明るい部屋」なのに、なぜ疲れるのか
たとえば、暗い部屋の中で明るいパソコン画面を見続けているとします。
画面を見ているとき、目は明るさに合わせています。ところが、机の上や部屋の奥へ視線を移すと、今度は暗さに合わせなければなりません。再び画面を見ると、また明るさへの調整が必要になります。
このように、視線を動かすたびに目が明暗へ順応し直す環境では、平均的な明るさが適切であっても、負担が積み重なることがあります。
視覚過敏のある人の場合、この明暗差が、まぶしさ、目の痛み、集中しにくさ、疲労として現れることがあります。つまり、問題は単純な「明るすぎる、暗すぎる」ではなく、明るい部分と暗い部分が、どのように同時に見えているかということです。
1.急激な明暗差を作らない

まず確認したいのは、作業する場所と、その周囲の明るさです。
よくあるのが、次のような状態です。
- 暗い部屋の中で、画面だけが明るい
- 窓を背にして、逆光の状態でパソコンを見る
- 暗い机の上を、強いデスクライトだけで照らす
- 白い紙や机だけが強く光を反射している
こうした環境では、視野の中に局所的な明るさのピークができます。
対策としては、画面だけを暗くするのではなく、画面の周囲にも弱い照明を置く、カーテンで窓からの光を調整する、デスクライトの向きを変えるなど、明暗のつながりを穏やかにする方法があります。
重要なのは、全体を暗くすることではなく、一か所だけが突出して明るくならないようにすることです。
2.「白ければ見やすい」とは限らない

壁、天井、机、棚に白が多く使われる理由には、清潔感があり、空間を明るく見せやすいことがあります。しかし、白い面は照明や外光を強く返すことがあります。
特に、白い壁、白い天井、白い机に強い照明が当たると、光源そのものを見ていなくても、視野全体が明るくなりすぎる場合があります。
ガイドラインでは、安全側の運用目安として、壁面を純白ではなく、中程度の明るさを持つ低彩度の灰色域にすることを提案しています。ただし、すべての壁を灰色に塗り替えなければならない、という意味ではありません。
たとえば、
- 白い机に光沢のないグレイのデスクマットを敷く
- 真っ白な壁の一部に、低彩度の布やパネルを置く
- 光沢の強い素材を、マットな素材へ替える
- 照明が白い壁へ直接当たらないよう角度を変える
といった小さな調整でも、反射の強さは変わります。白をなくすのではなく、白が光を強く返しすぎていないかを見ることが大切です。
3.「硬い影」も視覚刺激になる

まぶしさというと、明るい部分だけに目が向きがちです。しかし、強い光によってできる、輪郭のくっきりした影も、大きな明暗差をつくります。
一つの強い照明だけで机を照らすと、手元や物の下に濃く硬い影ができます。視線を動かすたびに、明るい面と暗い影が交互に入るため、落ち着かない見え方になることがあります。
対策は、単純に照明器具を増やすことではありません。
- デスクライトを少し離す
- 光の角度を変える
- 拡散カバーを使う
- 弱い補助光を加える
- 壁や天井に反射させた間接光を使う
といった方法で、影の境界を柔らかくします。複数の強い光を置くと、かえって光源が視界に入りやすくなります。大切なのは灯数ではなく、光を分散し、影を鋭くしないことです。
4.床・壁・天井の明るさをつなげる

空間の中では、床、壁、天井を別々に見るのではなく、上下方向の明るさの流れとして考えます。一般には、床はやや暗く、壁は中程度、天井はやや明るくという順序にすると、空間が安定して見えやすくなります。
反対に、黒に近い床から真っ白な壁へ急に切り替わるなど、隣り合う面の明るさが大きく違うと、視線を上下へ動かすたびに強い明暗差が生まれます。
ガイドラインでは、床、壁、天井の明るさの順序を保ちながら、隣接する面の差を急激にしないことを提案しています。
家庭ですぐに床や壁を変更することは難しくても、
- 暗い床に中間色のラグを敷く
- 白い壁の前に低彩度の家具を置く
- 黒い家具と白い壁が隣接する範囲を減らす
といった方法で、明るさの段差を和らげることができます。
5.照明器具を「見せない」

部屋の照度が適切でも、照明器具そのものが視線に入ると、まぶしさが生じることがあります。特に、パソコン画面の少し上に天井照明が見える、顔を上げると裸の光源が直接目に入る、といった配置は負担になりやすい状態です。
照明設計では、不快なまぶしさを評価する指標としてUGRが使われ、一般的な作業空間では「19以下」が一つの目安とされています。
ただし、UGRが基準内であっても、実際に座る位置や姿勢によって、光源が目に入ることがあります。
そこで本ガイドラインでは、既存のUGRの目安に加え、普段見る方向の周辺に高輝度の光源を置かないという、配置上の考え方を加えました。具体的には、視線方向のおよそ上下左右30度以内に、強い光源を置かないことを安全側の目安として提案しています。これは既存規格の数値ではなく、本ガイドラインにおける運用上の提案です。
家庭や職場では、
- 座る位置を少し変える
- 机の向きを変える
- 照明にルーバーや拡散カバーを付ける
- 光源を直接見ない間接照明へ替える
といった対応が考えられます。照明を暗くする前に、まず光源が視線に入っていないかを確認してみてください。
まず、いちばん明るい場所を探してみる
環境を見直すとき、一度にすべてを変える必要はありません。
まず、普段座っている場所から周囲を見てみます。
- 視野の中で、最も明るい場所はどこか
- 照明器具が直接見えていないか
- 机や壁に光が強く反射していないか
- くっきりした影ができていないか
- 画面と部屋の明るさが大きく違っていないか
この中から、最も気になるものを一つだけ変えてみます。数日間過ごしたあと、まぶしさや疲れ方が変わったかを確認します。
本ガイドラインでは、視覚刺激による負担を、「点検」→「対応」→「再評価」の順に見直すことを基本としています。全部を一度に変えるのではなく、負担の大きい項目を絞り、一つずつ試す方法です。
数値は「絶対的な正解」ではなく、調整の目安
第1章では、次のような数値を安全側の運用目安として提示しています。
- 視野内の輝度比:おおむね1対3〜1対5以内
- 壁面:マンセル明度V5〜6程度の低彩度色
- 床・壁・天井の隣接面の明度差:マンセル明度1〜2程度
- 一般作業空間の不快グレア:UGR19以下
- 視線方向のおよそ±30度以内に高輝度光源を置かない
このうち、UGR19以下は一般作業空間で用いられる既存の目安です。一方、輝度比や壁面の明度、視線方向の角度などには、本ガイドライン独自の安全側の提案が含まれています。したがって、すべての人や空間に共通する医学的な閾値ではありません。
視覚過敏の感じ方には個人差があります。数値に環境を合わせること自体を目的にするのではなく、数値を手がかりにしながら、本人が長時間安定して過ごせる状態を探すことが重要です。
まとめ
明るさによる負担は、光の量だけで決まるものではありません。
- 視野の中にある明暗差
- 光源の位置
- 壁や机からの反射
- 影の硬さ
- 床、壁、天井の明るさの関係
これらが重なって、まぶしさや疲れをつくることがあります。「明るすぎるから暗くする」のではなく、突出して明るい場所をなくし、明るさのつながりを穏やかにする。それが、第1章「明るさ・輝度」の基本となる考え方です。
次回は、第2章「色彩」を取り上げます。鮮やかな色をすべて避けるのではなく、色の強さ、面積、数をどのように整えれば、落ち着いて過ごせる空間になるのかを考えていきます。


