感覚過敏研究所 応援隊の岩間祥泰です。「視覚ノイズを考える」をテーマにしたコラムの第3回をお送りします。
コラム第1回では、人工光に関わる代表的な「視覚ノイズ」を取り上げ、
第2回では、「明るさ・輝度」をテーマに、明暗差や光の位置についてお話ししました。
第3回は、「色彩」の話です。
色について考える時、「赤は刺激が強い」「青は落ち着く」といったように、まず「何色か」に目が向きやすいかもしれません。しかし、視覚的な負担を考えるときには、色相だけでは十分ではありません。
同じ赤でも、鮮やかな赤とくすんだ赤では刺激の強さが違います。小さな赤い印と、壁一面を覆う赤でも違います。そして一つの色だけを見る場合と、多くの色が同時に視界に入る場合でも、受ける印象は変わります。
私が作成しているガイドラインでは、①色の鮮やかさ、②使う面積、③色の数、④背景となる色、⑤照明との組み合わせという5つの視点から、色による視覚刺激を考えています。色をなくすことが目的ではありません。「色から受ける刺激の総量を整えること。」これが基本的な考え方です。
視覚にやさしい空間を色彩からお話してみます。
鮮やかさ・面積・色数を整える
1.高彩度色を大面積に使わない

まず考えたいのが、「鮮やかさ」です。色の鮮やかさは「彩度」と呼ばれます。
鮮やかな赤、黄色、青、緑などは、目を引きます。案内表示や広告、アクセントカラーとして使えば、必要な情報に気づきやすくする効果があります。一方で、それが壁や床、家具など広い面積を占めると、視線を向けていなくても強い色が視野に入り続けます。
視覚過敏のある人にとっては、こうした高彩度色が長時間視界に入り続けることが、落ち着かなさや疲労につながる場合があります。
そこで本ガイドラインでは、部屋全体の基調となる色は低〜中彩度を基本とし、鮮やかな色はアクセントとして限定的に使うことを提案しています。
運用上の目安としては、マンセル表色系で、
- 基調色:彩度 C≦4
- 高彩度色:C≧6
- 高彩度色が占める面積:視野内10%以下
としています。
ただし、この数値は「10%を超えたら危険」という医学的な境界値ではありません。長時間過ごす空間では、鮮やかな色が視野を占領しないようにするための目安です。
たとえば、赤いクッションが一つあることと、赤い壁に囲まれていることは、同じ「赤」でも意味が違います。「何色を使うか」だけでなく、どのくらいの面積で使うかを見ることが大切です。
2.刺激色は「目的」と「面積」を考える

1番目と似ているように見えますが、ここでは少し違う視点から色を考えます。
赤や黄色など、注意を引きやすい色や、高いコントラストをつくる色は、案内・注意喚起・非常表示などでは重要な役割があります。つまり、「刺激が強いから使わない」という考え方ではありません。
問題になるのは、本来は注意を向けさせるための色が、空間のあちこちに大量に存在することです。
たとえば、
- 赤い掲示物
- 黄色い注意書き
- 鮮やかな案内表示
- 強い色を使ったポスター
- 高コントラストのサイン
が同じ視野の中にいくつもあると、本当に必要な情報まで埋もれてしまいます。
そこでガイドラインでは、高彩度色や高コントラスト色などの刺激色について、視野内5〜10%以下を運用上の目安とし、広い一面に連続して使うのではなく、必要な場所に限定して使うことを提案しています。
大切なのは、刺激色を減らすことではなく、刺激色が本当に必要なところで機能するようにすることです。色を目立たせたいからこそ、周囲を少し静かにする。その方が、情報としても色が生きてきます。
3.色数を3〜4色以内に抑える

次に考えたいのが、「色の数」です。一つひとつの色がそれほど鮮やかでなくても、同時に多くの色が視界に入れば、視覚情報は増えていきます。
たとえば部屋の中に、白い壁、木目の机、黒い棚、青い椅子、赤いファイル、黄色い掲示物、緑の収納箱……と多くの色が存在すれば、私たちは意識していなくても、それらを同時に見ています。
そこで本ガイドラインでは、空間の色を、基調色+補助色+アクセント色を含めて3〜4色程度に抑えることを一つの目安としています。
ここで注意したいのは、白・灰色・黒などの無彩色も「色」として数えることです。さらに、家具の木目、床材、金属の色なども、実際に視野に入る色として考えます。
もちろん、家の中に4色以上あってはいけないという意味ではありません。重要なのは、同時に視界へ入ってくる色の数を増やしすぎないことです。色数を少し整理するだけで、「何となく落ち着かない」と感じていた空間が、すっきり見えることがあります。
4.壁・机・棚は「背景」として考える

壁、机、棚は、普段それ自体をじっと見ているわけではありません。しかし実際には、長い時間、視野の中に存在し続けています。
つまり、これらは空間の「背景」です。背景が真っ白だったり、非常に明るかったり、鮮やかな色だったりすると、意識していなくても視覚刺激として入り続けることがあります。
そこで本ガイドラインでは、壁・机・棚などの背景となる面について、
- マンセル明度 V=4〜6
- マンセル彩度 C=0〜2
程度の、低彩度・中明度を基本とすることを提案しています。これは、すべての壁を灰色に塗り替えましょう、という意味ではありません。
たとえば、
- 白い机がまぶしければ、低光沢の中明度デスクマットを敷く
- 鮮やかな収納用品を視線の外へ移す
- 白い棚の一部に低彩度の収納ボックスを使う
- 光沢面をマットな素材に替える
といった小さな調整でも、背景から受ける刺激は変わります。ここで大切なのは、背景は「何もしていない部分」ではなく、常に目に入っている環境の一部だということです。
5.色と照明は別々に考えない

最後は、壁や家具の色と「光」の関係です。同じ壁紙でも、昼間の自然光で見る場合と、夜に電球色の照明で見る場合では、色の見え方が変わります。また、色のついた壁に光が当たると、その反射光が周囲へ回り込み、空間全体がその色を帯びて見えることがあります。
つまり、色はそれ単独で存在しているわけではありません。光があって初めて、色として見えています。
そこで本ガイドラインでは、壁や天井は無彩色〜低彩度を基本とし、照明についても極端な高色温度を避け、光源と壁色をセットで考えることを提案しています。
運用上の目安として、
- 壁・天井:彩度 C=0〜2
- 光源の色温度:3000〜4500K程度
を示しています。
ただし、ここでも数値だけを守ればよいわけではありません。たとえば、低彩度の壁でも強い色味を持つ照明を当てれば、空間全体の色は変わります。
反対に、有彩色の壁を使いたい場合でも、面積を抑え、照明の色味を整えることで刺激を調整できます。壁の色だけ、照明だけではなく、「壁の色×光」で見る。これが5番目のポイントです。
色を「悪者」にしない
視覚過敏への配慮というと、「白はだめ」「赤は刺激が強い」「青なら落ち着く」というように、特定の色に単純化して考えたくなるかもしれません。
しかし、今回の第2章で重視しているのは、そこではありません。
同じ色でも、鮮やかさが違えば変わる。面積が違えば変わる。周囲の色が違えば変わる。照明が違えば変わる。
色による負担は、こうした条件の組み合わせで考える必要があります。だからこそ、色をすべて減らす必要もありません。まず、自分の視野を見渡してみる。部屋に座って、いつも見る方向を一度眺めてみてください。
鮮やかな色が大きな面積を占めていないでしょうか。注意を引く色が、いくつも同時に見えていないでしょうか。色数が多くなりすぎていないでしょうか。壁や机、棚が、背景として強すぎないでしょうか。照明をつけたときに、壁の色が必要以上に強く見えていないでしょうか。
全部を変える必要はありません。一番気になるものを一つだけ変えてみます。そして数日後に、「少し楽になったか」を確認してみてください。
本ガイドラインでは、こうした「点検→対応→再評価」を基本にしています。
まとめ
色による視覚的な負担は、「何色を使うか」だけでは決まりません。
今回ご紹介したポイントは、
- 高彩度色を大面積に使わない
- 刺激色の面積を抑え、目的を限定する
- 色数を3〜4色程度に整理する
- 壁・机・棚は低彩度・中明度を基本とする
- 壁の色と照明の色をセットで考える
という5つです。
共通しているのは、色を禁止するのではなく、色刺激の総量を整えるという考え方です。私たちの暮らしから色をなくす必要はありません。
むしろ、色を使う場所、量、組み合わせを少し整えることで、必要な色がより見やすくなり、長く過ごしやすい空間に近づけることができます。
次回は、「光源の質」を取り上げます。同じ「白い光」に見えていても、色温度、演色性、光の広がり方、そしてスペクトルは同じではありません。照明を「明るいか、暗いか」だけではなく、どのような光なのかという視点から考えていきます。
参考
岩間祥泰, 視覚過敏の方のための環境ガイドライン,2025
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