感覚過敏でマスクがつけられない人のための意思表示カードを作成して2年。マスク社会に変化はあったのか?(前編)

感覚過敏研究所の所長・加藤路瑛です。世界中で新型コロナウイルスが広まり、日本でも緊急事態宣言が出ていた2020年4月、私は「感覚過敏が理由でマスクがつけられない人のための意思表示カード」を作成しネットで公開しました。公開から丸2年が経ちました。あれからマスク社会、そしてマスクができない人への風当たりは変わったのでしょうか?少し振り返りながら、これからの日本はマスク社会が続くのかを考えてみたいと思います。

気軽に作った意思表示カードが想定外に注目されてしまった

マスクがつけられない人のための意思表示カードは、たくさんの人に注目され、拡散され、テレビや新聞やメディアにもたくさんの出演依頼や取材依頼が来ました。このカードは、「マスクがつけられなくて、白い目で見られたり、罵倒されたりする人がいなくなればいいな」と思って、当時13歳の私がCanvaで1時間くらいで作成したものです。こんなに注目されるなら、もっときちんと作ればよかったと今さらながら思います。

はじめは1種類「マスクがつけられません」だけを作りました。そのうちに「つけられるけど長時間つけられないから苦手ですバージョンを作ってほしい」「フェイスシールドもつけられないからそのカードも作ってほしい」そんなリクエストに対応したら全部で7種類になってしましました。このカードは、無料でダウンロードでき、印刷してハサミで切ってネームホルダーなどに入れてご利用いただけます。

中学生が作って無料公開しているというのは美談的でもあったのでしょう。たくさんのメディアで取り上げていただきました。感覚過敏研究所を立ち上げたのは2020年1月です。それから数ヶ月後、たくさんの人に「感覚過敏」という言葉を知ってもらえたのは、コロナのおかけでもあります。

賛同や応援だけでなく批判もたくさんありました

意思表示カードがメディアで取り上げられると、SNSやヤフコメでたくさんの批判コメントもありました。

「こんなカードはいらないからマスクつけられないやつは家を出るな」
「代替案もないのにこんなカード作るな。迷惑だ」

そんな言葉がネットにはたくさんありました。多くはありませんが、SNSのDMや感覚過敏研究所のメールにもそのような意見は送られて来ました。

マスクがつけられない人が、このようなカードを身につけて、免罪符のように堂々と歩いていると思うその発想力が残念で仕方がありませんでした。マスクがつけられない人が、買い物や病院などすら行くのが難しく、それでも出かけなければならない時は、人の少ない時間帯を選んで身を小さくしながら、白い目に晒されながら外に出る。それは、意思表示カードがあろうとなかろうと同じです。当事者の少しばかりの心の安定とマスクをしない人を見た周囲の人の不安を少し和らげるためのカードです。

世の中のあらゆることは、見ただけで判断できることは少ない。幸せそうに見える人にも悩みや苦労はあるはずです。マスクをつけていない人がいたら「つけてない!こわ!」とか思うのは仕方がないとして、その後、客観的に「つけてないな。何か理由があるのかもしれない」と見えない事情を想像する力のある人が異常に少ないなと思って世の中を見ていました。

14歳の私でさえ、見えない事情への想像力はある。それなのにこの世の中はどうなっているのだろう・・・この社会の残念な部分が見えるようになったのがこの頃です。

代替案はずっと考えていた

私がカードを公開してから一番多かった批判は「代替案もないのにこんなカード作るな」でした。代替案は言われなくてもずっと考えていました。そういう苦悩をツイートした時、いただいたコメントが「溶接のマスクみたいなのはどう?うちわみたいなもの」でした。そのアイディアから最終的に辿り着いたのが「せんすマスク」でした。

扇子型で行こうと思いました。ノベルティー制作のようなものを見ると紙製の扇子ばかりでした。エコだし紙製でと思いましたが、アルコール消毒できた方がいいと思いプラスティックの扇子が作れるショップをネットで探して注文しました。

「せんすマスク」は普通の扇子と何が違うの?と聞かれることがありますが、普通の扇子です。プラスチック扇子です。100円ショップで売っているかもしれない。私はそれに「せんすマスク」という名前をつけて、役割を少し変えただけです。感覚過敏の「感覚」を英語にした「SENSE」と日本語の扇子「SENSU」両方の意味を込めて「せんすマスク」です。商標登録もしました。

「無地がほしい。」「口元が見えるように透明なものがほしい」そんなリクエストにこたえようと作れる工場を探して販売したのが透明せんすマスクでした。これもリクエストに応えていろんな色を作りました。(基本、頼まれると実現させたくなる人間のようです)

扇子マスク。マスクがつけられない場合の飛沫対策商品です

せんすマスクもたくさんのテレビやメディアで取り上げていただき、7000本以上販売できたかと思います。

理解が広まる。マスクができない人が社会にどう受け入れられていくのか?

成田国際空港さんでの取り組み

1つの転機は、成田国際空港空港さんが「せんすマスク」を採用くださったことです。オリンピックが開催される日本において日本の玄関である成田空港はバリアフリーを推進しており、マスクができないお客様をどうるすか?というのは課題だったと想像します。業界としてのルールは、マスクをしていない人がいたら声をかけ、マスク着用を促すというのが当時の航空業界でのルールでした。

成田空港の第1、第2、第3ターミナルの一部の案内所にせんすマスクは置かれていて、必要な方に無料配布されています。このせんすマスクをしている人は「マスクができない人」と警部員やスタッフにも情報共有されていて、それはマスクができない人にとって安心につながることだと思います。

このツイートも予想外にバズってしまって、私も成田空港さんも焦ってしまいました。ツイートを見て、本来の目的ではない人がせんすマスクをもらいにくる事態が発生してしまったようでした・・・

そんな簡単にマスク問題は社会に受け入れられない

成田空港での取り組みの影響か、このあと、いろいろな交通機関から相談が来ました。航空会社からは複数。フェリー会社や、タクシー会社からの相談もありました。

とあるタクシー会社からは、「もうすぐマスク着用していない人を乗車拒否できるようになるルールが発表される」と連絡がありました。拒否しなくてもいいように何かできないかという相談でした。ドライバーさんがマスクをしていないお客さんを乗せるのを怖がったのです。確かにドライバーの立場になれば理解はできました。

ただ、多様を受け入れる社会からは逆行している。こんなことが交通機関で行われていいのだろうか?嘘だと言ってほしい・・・そう思っていましたが、その後、本当にニュースになっていました。

マスクができない人にも権利がある

航空会社からも意思表示カードの利用などの問い合わせが複数ありました。しかし、マスク着用拒否によるトラブルが報道され、社会的な流れが「マスクしない人は飛行機に乗るな」という感じになり、いくつかの航空会社は、マスクができない人への配慮を断念してしまったようでした。

そんな中で、実行を決断くださったのがスカイマークさんでした。それも無料版ではなくシール型のものを作ってほしいとのリクエストでした!

現在も、スカイマークの全てのカウンターと飛行機に常備されています。スカイマークさんは、マスクができない人々への理解がありました。もちろん周囲はマスクをしていない人がいたら不安です。ルールでは、マスクをしていない乗客にはスタッフが声をかけることになっています。スタッフそれぞれが声をかけます。このシールを貼っておけば、スタッフにも一目でわかるので何度も声をかけることはなくなりますし、周囲の乗客にも「スカイマークが把握している人」という安心感が生まれます。

マスクがつけられませんシール
マスクがつけられません缶バッジ
マスクがつけられませんマークのダウンロード版

意思表示カードを作って2年が経ったけれど

あれから2年が経ちます。マスクをつけられない人の環境は変わったのでしょうか?感覚過敏研究所では、感覚過敏当事者が参加できる無料の感覚過敏コミュニティ「かびんの森」があります。その中では、いまだにマスクができなくて困っている方の悩みが綴られていいます。

「マスクをつけて学校に行くのが辛い」
「マスクがつけられないから接客の仕事ができずに退職した」
「マスクができないから店舗では働けず、本社に転勤ということになるそうだけど、マスクなしで電車に乗れない。店舗は自宅から近くて電車に乗らなくよかったのに」
「マスクができず職場に行けずずっと自宅勤務のままだ」

そんな人がマスク社会にはまだいます。何も変わっていない・・・。この社会で取り残されたように・・・

マスク社会はもうすぐ終わるだろう。そのような私の希望的な予測もあって、実はマスク問題に真剣に取り組んでこなかった部分があります。「あと少しでマスクも自由選択になるはず」ずっとそう言いながら2年が経つ。意思表示カードを作り、バズり、メディアに出て、感覚過敏研究所や、中学生の所長である私は多少の注目を得られた。私にとっては、ラッキーな出来事だ。マスク問題をのおかげで結果的に注目を得られたのだから。

でも、マスクができなくていまだに日常生活に支障がある方々のためになっているかといえば、私の力では何も変えられていないのです。

このままでいいはずがない。

カードを作って丸2年経った2022年4月。私に力はないが、感覚過敏などの理由でマスクができない人のためにもう一度声を上げたい。

前編は感覚過敏研究所のマスク問題の取り組みについてまとめました。後編は、日本社会のマスク問題への取り組みや海外の事例について書きたいと思います。

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