こんにちは。感覚過敏研究所・所長の加藤路瑛の母、加藤さとみです。前回、『食べない子どもの子育て〜赤ちゃん・幼稚園時代〜加藤路瑛編』を書かせていただきました。食に関心がない子、食べない子の子育ては、精神的に追い込まれやすくなります。体の基礎を作り、大きく育てることが親の役目だと思っている中で、自分の子は成長を拒否しているのか?と思うくらい食べないのですから(涙)
息子が幼稚園を卒園する頃、親業も6年近くになり、「息子は食べなくても生きていける子なんだ」と食べない息子を受け入れられるようになっていました。と言っても、この頃は、「成長とともに食べられるものも増えていく」という期待が親の私にはあり、やはり、『食べる子はいい子』というイメージを持っていたように思います。
今回は息子の小学校時代について振り返ってみたいと思います。
はじめての給食で
入学時の心配は何と言っても「給食」でした。勉強がついていけるのかとか、友達ができるのかといった心配よりも、まず先に思うことは「給食で食べられるものはあるのか?」でした。
幼稚園は、お弁当の曜日と給食の曜日がある園でした。給食は外部の給食センターから届くもので、息子はほぼ食べていませんでした。白米は食べられたので、少しでも食べれたらOKと言う感じで、先生方も無理に食べさせようとはしなかったので、給食を嫌がることはありませんでした。
小学校に入学し、はじめての給食。
息子は給食を口にして・・・・吐いてしまったようです。担任の先生からも電話連絡があり、食べることが苦手であることをその時に伝えることができました。
息子にとっては、給食に良いイメージはできなかったのでしょう。入学して10日程、給食が始まって3日目のことです。また、担任の先生から電話をいただきました。朝、登校したにも関わらず、息子が教室に入らず入り口の前で泣いていたそうです。先生が理由と尋ねると、
「給食がこわい」
と答えたそうなのです。それ以来、毎朝、「給食が嫌だな」と言いながら登校していました。「嫌だな」とネガティブな発言をしながら登校する我が子を見送るのは辛いものです。
「食べれなかったら食べなくていいからね」が「行ってらっしゃい」の代わりの見送りの言葉になっていました。
息子の小さな希望の光
小学校を入学して1ヶ月が経った頃、友達の家で遊んでいた息子が興奮したように帰ってきました。
「ママ、じえいね、中学受験する!給食がなくてカフェテリアがある中学校に行くよ」
聞けば友達の家で給食がつらいという話をした時に、その場にいた友達のお兄さんに、「それなら、僕の中学に来なよ。カフェテリアで好きなものを食べれるから」と言われたそうなのです。地元公立中学校は給食でした。小学校6年間だけでなく、中学3年間も給食があるのは息子にとっても拷問のようなものだったのでしょう。「カフェテリア」という魔法の言葉で息子は、「今は給食だけど、中学は好きなものを食べれる」と希望が出たようでした。
まだ1年生。卒業まで6年もありますが、その長さをまだ想像できない6歳の息子は次の希望でいっぱいでした。そして6年間、本当に息子は「中学は給食のない学校に行く」という希望だけで学校給食を耐え抜くのです。さらに、このモチベーションだけで中学受験をし、給食のない中学校の合格を掴んだのでした。特別、勉強が好きではない息子が、よく中学受験の勉強をやり抜いたなと関心します。その原動力は「給食回避」。それほど、給食は息子にとって鬼門だったのです。
面談のたびに
小学1年から6年までの間、保護者面談で話す話題は給食のことばかりでした。勉強や運動、友達関係で悩むことはあまりなかったので、必然と給食の話になります。
幸いなことに、食べ終わるまで居残りさせるような先生が担任になることはありませんでした。方針として、全く食べないというのは認められず、どのメニューも最低1口は食べるというルールでした。その一口ですら、本人にとっては耐え難い苦痛ですが、この頃は「好き嫌いが多い子」「きっとそのうち食べられるようになる」「少しずつでいいから食べられるものを増やしましょう」というのが先生方のお考えでした。
小学校4年の時の担任の先生は、息子をよく褒めてくださる先生でした。新卒の先生でしたが、息子が1口食べたら、「まじ?食べれたの?すごくない?」と、持ち上げてくれます。先生としてしっかりされていましたが、お兄さん的な存在でもありました。先生に褒められるたび、調子に乗って食べるということを繰り返しできた時期で、この時期はあまり「学校が嫌(給食が嫌の意味)」と言わなかった記憶があります。
5年生になって、少しでも多く食べてもらいたいと思う担任の先生になりました。「苦手なものも1口だけ」というルールは1年生のことからずっと続く方針でした。担任の先生は「食べないと大きくなれないよ」という声かけが多かったようなのです。
そのうち、クラスの子どもたち、特にしっかりものの女の子たちが先生の言葉と同じ言葉を息子にかけるようになります。「そんなんじゃ、大きくなれないよ」「もっと食べないとだめだよ」
給食のたびに、先生と女の子が息子に声をかけます。お世話好きなお姉さんに囲まれるといった状態でしょうか。息子の給食嫌いが加速していき、「学校嫌だな」と愚痴ることが増えていました。息子は、愚痴るけど登校をしぶるようなことはありませんでした。登校しぶりをすることはなかったので、私もあまり深く考えないでいました。
下校後、お腹をすかせた息子が大量のパンやお菓子を食べ始めるのも5年生になってからのことでした。
このままではダメだ!
5年生の後半から息子の成長期がはじまり、気がつけば身長もクラスで後ろから数えた方が早い状態になっていました。周囲の人にも「大きくなったよね。びっくりした」と言われるくらい急激に背が伸びました。
5年生後半から息子の身体能力も成長し、運動面で目立つ機会が増えてきました。運動会ではリレーの選手としてアンカーになったり、市の陸上大会の代表選手に選ばれ、6年生に進級した4月からは陸上の朝練が始まりました。陸上大会に出て短距離で1位を取ってから、息子は様々なことに積極的になりました。学級委員に立候補したり、成績も上がりました。
6年生の担任の先生が、息子の力を引き出してくれていることは明白でした。
「そんな速く走れるいい筋肉持ってるから、タンパク質をとった方がいい」と息子に声をかけてくれていました。速く走りたいと思う気持ちに火をつけ、息子も食べることを意識します。でも、給食はあいかわらず食べれません。
ある日、先生から電話があります。
「おかあさん、今、成長期ですよ。運動能力もあがっています。この時期に昼ご飯を抜いてる状態はダメです。お弁当にしましょう!」
という提案でした。先生の提案は、とりあえず、どこかの病院で給食ではなくお弁当持参の措置を勧める診断書をもらって、それを校長先生に渡して給食を打ち止めして弁当持参の交渉をするというものでした。
私はネットで若年層の摂食障害の治療をしている精神科のクリニックを見つけ、息子と2人で事情を話しにいきました。とても話しやすいドクターで、
「給食なんか食べたくないよな?よし、先生がお弁当がいいと手紙を書こう!今までよく頑張った」と言ってくださったのです。こうして、小学校6年生の途中から、息子は家からお弁当を持っていくことになったのです。
クラスの子の理解に向けて
お弁当持参がはじまる数日前、先生から電話がかかってきます。
「クラスのみんなにお弁当持参にすることを伝える必要があります。加藤くんが自分で言うか、先生から話した方がいいか、どちらがいいか本人に考えるように伝えてありますので、家で話しあってください」
ということでした。息子はみんなのリアクションがわからないし、どう言えばわからないから、先生に先に説明してもらって、そのあと自分で一言だけ言うという方法を選びました。
その日、先生が話された内容は、息子からの伝え聞きですが、素晴らしいものでした。以下、息子の話からの再現です。
「みんなも勉強が苦手な人、運動が苦手な人、いろいろ苦手があるよね?加藤くんは食べることが苦手なんです。苦手なものが少しくらいあってもいいよね。病院にも行ってきてもらったら、お医者さんもお弁当にしたほうがいいと言っていました。だから今日から加藤くんはお弁当を食べます。
加藤くんがちゃんと食べてるかどうかは先生が見るので、みんなは自分の給食のことだけ考えてください。みんなより先生の方が怖いよね?先生がちゃんと見るから、加藤くんがどれだけ食べてるか、ちゃんと食べてるかは気にしないでください」
後半の部分はクラスの女の子たちに向けたメッセージでした。5年生から引き続き同じクラスです。6年になっても、お世話好きな子たちは、「食べないと大きくなれない」と息子に言い続けて少しでも食べさせようとしていたのです。先生はその状況をちゃんと把握されていました。びしっと話してくださり、以後、息子が食べることで何か言われることもなくなったのです。
食べることが苦手なことで学校嫌いになる可能性も
給食が苦手な子は、学校に行くことにも苦痛を感じます。弁当を持参するようになってから、息子がこれまでの5年間を回顧できるようになりました。
次回は、『食べない子どもの子育て〜中学生時代〜加藤路瑛編』をお届けしたいと思います。
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