職場での合理的配慮で一番大切なこと。求めることばかりではなく、伝える言葉を考える。

合理的配慮で大切なこと

感覚過敏のある方々にとって、仕事環境での悩みは尽きません。配慮を求めることさえも一筋縄ではいかない現実があります。感覚過敏研究所が運営する感覚過敏コミュニティ「かびんの森」にもたくさんの悩みや相談が投稿されます。



・パソコンの画面が眩しい
・職場が騒がしいけど、耳栓などをしていいのだろうか・・・
・声の大きい同僚がいるけど我慢するしかないのか・・・

など。


2024年4月より、障害者差別解消法が改正され、全て事業者に合理的配慮が義務化されました。それによって、環境調整をお願いしやすくなったかといえば、まだその状態ではなく、少しずつ理解が広がっていくものでしょう。また、職場が合理的配慮をおこなってくれたとしても、同僚全員の理解を得られるかは個人的な感情や価値観も絡む部分でまだまだ手探り状態です。

そんな中、感覚過敏コミュティ「かびんの森」に以下のような投稿がありました。

私は出勤したときはほとんど別室にいますが、ひとりぼっちにならないように同僚の方へ「別室にいますが、話しかけて大丈夫なので用事があるときは呼んでください」とおねがいしていて、
テレワークのときは、「今日はテレワークですがなにかあったらチャットしてください」って同じチームの人にはチャットして、孤立しないように対策しています。
業務終了するときに「今日も(配慮してくれて)ありがとうございました」っていうのも絶対言います。


この投稿を見て、新しい気づきがありました。私たちは「配慮してほしい」と心で思ったり、要求はするけれど、

配慮してもらってからの対応が人間関係において重要だと。
「もっとお話しを聞いてみたい!」 と、 投稿くださった「ゆう」さんにインタビューをお願いしました!


職場への合理的配慮に関するインタビュー

以下、かびんも森メンバー「ゆう」さんへのインタビュー内容です。

聞き手:加藤路瑛
ライター:いうと

感覚過敏や困りごとについて

──どんな感覚過敏やお困りごとがあり、それはいつから困っていたか教えてください。

いろいろな過敏がありますが、聴覚過敏と嗅覚過敏、温度感覚の過敏(特に寒さを強く感じます)が特に強いです。子どもの頃から感覚過敏の傾向がありましたが、特にひどくなったのは30歳を過ぎてからです。

──30歳頃にひどくなったのは、何か環境変化など思い当たることありますか?

28歳のときに双極性障害と診断されていたのですが、仕事で部署が変わって、環境が合わなかったことが原因です。

お仕事と合理的配慮の相談方法について

──どんなお仕事をしているのですか?

官公庁(自治体)の職員として働いています。異動が多く、部署によって雰囲気も仕事内容も大変さも様々です。

 

──異動前、後の違いもお聞きしたいです。

どうしても行ってみたい部署がありました。その部署はレベルがとても高い部署だったのですが、他の部署で努力を重ね、出世する形でその部署へ異動することができました。

もともと、職場でおしゃべりをする人がいるのが苦手で、仕事のレベルの高い部署に出世すれば優秀な人たちが集まっていて、みんな黙々と仕事をしているだろうと思っていたのですが、そんなことはなくて(笑)おしゃべりが好きなグループに入れられてしまい、1日中ずっとまわりがうるさい状態で体調をくずしてしまいました。

その時に適切な対処ができていればよかったのですが、うまく自分の状態の説明ができず、上司からは仕事ができないと誤解されてしまいました。どんどん鬱が酷くなっていき、それに伴い感覚過敏もひどくなりました。

今は、更に別の部署へ異動しています。前の部署での出来事を反省して、積極的にまわりに感覚過敏のことを説明して、合理的配慮を受けて働いています。

 

──私も周囲でおしゃべりしている人が多い環境はつらいです。人が多い職場だとつらいかもしれないですね。合理的配慮はどのように相談し、どのような配慮を受けていますか?

今の部署にも結構おしゃべり好きの方や独り言を言いながら仕事をしている人がいて、かなり辛い状態です。

相談は、最初は今の部署の所属長に直接相談しました。上司の人柄にもよると思いますが、すぐに理解してもらえました。上司が変わったり部署が変わったりしても引き継いでもらえるよう、人事の面談の際に改めて書面にして伝えました。

なるべく前向きな印象になるようにお願いしたこと

  • しずかな場所であれば体調をくずさずに仕事を続けることができる
  • 別室で仕事をすれば生産性が上がるので◯◯の業務もさせてほしい

→配慮を受けられればできる業務が増えることを強調しました。

具体的にお願いしたこと

  • 症状がつらいときは別室で勤務
  • 出勤が辛いときはテレワークに
  • 通勤ラッシュを避けて勤務時間をずらす

職場での合理的配慮を浸透していくために

──なるべく前向きな印象的になるように、伝えているそうですが、はじめからそうしていたのですか?何か配慮によって人間関係で困ることがあって、今のように前向きに伝えるようにしたのでしょうか?

前の部署でうるさいグループに入れられてしまい体調をくずしたとお伝えしましたが、そのときに上司が何度か面談をしてくれたんです。そのときに精神疾患があることや聴覚過敏があることを伝えたのですが、精神疾患がある=何もできないと思われてしまって。

仕事をふってもらえなくなってしまったり、私にいっさい話しかけてこなくなったり。普通の指示で業務ができるにも関わらず、別室に呼ばれて業務をひとつひとつ紙に書いて説明されたりしました。


イメージ画

 

困りごとである「まわりの話し声が辛い」はわかってもらえず、間違えた方向に配慮されてしまって、どんどん鬱が酷くなっていき、「この部署ではあなたは仕事ができない」というような趣旨のことを上司に言われて、今の部署へ異動しました。

でも、本当はその仕事自体は全くできないわけでも嫌なわけでもなくて、「周りがうるさいために体調不良になってしまう」だけなのですよね。 嫌などころか、その仕事がやりたくて何年も努力して認められて異動してきた部署だったのに、そんなことは全然伝わりませんでした。

今の部署は前の部署と関連がある部署で、今の部署でもやりたいことはできていますが、今の部署に異動したときも、前の部署から精神疾患であることが伝わっていて、最初は他の人よりもずっと少ない仕事しかふられていませんでした。

とても落ち込みましたが、自分の反省として、前の部署の上司に自分の現状や気持ちが伝わらなかったことが大きかったので、今度は具体的にどういう状態で何に配慮してほしいかきちんと伝えて、感覚過敏があっても精神疾患があっても仕事ができること、やりたい仕事があることをしっかり伝えていこうと思いました。

 

──詳しくお話しくださり、ありがとうございます。相手も精神疾患や感覚過敏のある人とどう接したり、どこまで仕事を任せていいかわからないので、差し障りがない対応になってしまうことがありそうですね。
これって、ゆうさんだけでなく、同じように伝えたけれども、言い方は悪いですが、腫れ物扱いのようになってしまって、本来は環境さえ整えてもられば十分、仕事もでき、能力も発揮できる人って結構いるように思います。
社会認知や職場の在り方として、どんな工夫や仕組み、サービスがあれば、このような誤解がなくなると思いますか?

発信するってとても大切だと思います。加藤所長さんのような方々がたくさん発信してくださるおかげで感覚過敏が認知されてきて、相手が感覚過敏について知っていれば伝わりやすいというのは大きいです。

私も、理想は社会全体でもっと感覚過敏や障害、病気に理解や知識があればと思いますが、現実は難しいですね。 私も、今の部署で最初に話した上司が理解がある方だったので上手くいきましたが、部署が変ったり上司が変ったりするとちゃんと伝わるか毎回不安です。

私は周りの理解を得るために障害者手帳も取得しましたが、逆に手帳を持っていることで偏見の目で見られることもあるかもしれないし。 質問の答えですが、感覚過敏があることを知らせたり配慮を求めたりするツールやしくみはもちろん必要なのですが、最近では結構普及してきている気もするので、もっと得意なことやできたことに焦点をあててアピールできるしくみがあったらよいなと思いました。

もっと得意なことやできたことに焦点をあててアピールできる仕組み

  • 会社が変わっても部署が変わっても自分の仕事の実績を引き継げるスコアシート
  • 困り事を抱える人たちがお互いにカバーしあいながら働ける場所

私は、誤解されないように、がんばって職場の方とのコミュニケーションをとるようにしていますが、精神疾患や発達障害のある方のなかには、コミュニケーションが苦手な方もいますよね。

そういう人たちが職場と上手くコミュニケーションできるように、コンシェルジュのような方が派遣されると良いなと思いました。

障害者雇用枠の相談員の方が私の職場にもいますが、私は一般雇用なので対象外ですし、その相談員さんとの相性もあると思うので、職場の外部の専門の方に間に入って調整してもらうなどができたら、良いかもしれません。

 

──ありがとうございます。確かに啓発以外の部分でいうと、感覚過敏の人への配慮のお願いだけでなく、「できること」がきちんと伝わることが大事ですね。そのための伴走やコーディネーターも外部で相談に乗れる人がいるといいのかもしれません。

最後質問です。ゆうさんは、自分からの声かけ・発言は、とても大切にされていますよね? 実際、この声かけによる違いや効果って感じられますか?

私の理想として、別室にいたりテレワークだったりしても他の人と同じように働きたいというのがあります。パソコンがあればどこでも仕事はできるのですが、オフィスにいないので対人関係に困りました。

はじめのうちは、テレワークの次の日に出勤すると机の上が伝言メモだらけになっていたりしていたのですが、それだと処理するのが遅れてしまって相手を待たせてしまうし、自分も仕事がたまってしまって大変になってしまいます。

また、私の代わりに対応してくれる人もいたのですが、それだと他の人の仕事を増やしてしまいます。

連絡してOKと毎回声をかけるようになってから、別室やテレワークでも電話を繋いでもらえたり、どんどん仕事も回ってきて、自分もまわりの方も負担なく仕事ができていると思います。

普通にオフィスに居られれば、電話を取るとか来客に対応するとかもできますが、別室やテレワークの場合、電話を取ることや来客の対応ができません。また私は時間をずらして遅く出勤しているので、朝早く来た人がするポットにお湯を入れる、新聞を取るなどのことも難しいです。

また、配慮してもらっていても体調を崩して休んでしまい、他の人にカバーしてもらうことも多いです。どうしてもできない部分はあるので、それらをやってくれる同僚に対して「ありがとう」の気持ちは必ず伝えるようにしています。

学校であれば、配慮してもらうだけでもOKだと思うのですが、私は職場に働きに行っているので、なるべく他の人と同じように働きたいし、できない部分があると申し訳なく思います。ただ申し訳ないばかりだとお互いに苦しくなってしまうので、どんな小さいことでも「ありがとう」と必ず言うようにしています。

──ありがとうございます。一緒に働く人の感情も大事ですから「ありがとう」を伝えるってとても大事ですよね。私は、「障害があるから配慮されて当然」という一方的な関係ではなく、お互いが歩み寄れるポイントを見つけて、尊重しあえることが大切だと思っています。ですので、ゆうさんのお話がとてもいいなと思いました。

 

インタビュー後談(所長レビュー)

インタビューを担当した加藤です。みなさん、いかがだったでしょうか?
私にとっては学びの多いインタビューになりました。
職場で環境の配慮を求めることって、どこまでが適正であり合理的であり、どこからがわがままになるかは、受け手の感情に絡みますし、給料をもらう立場でどこまで強く言えるか、とてもデリケートな部分だと思っていました。 
特に、上司の理解があっても、同僚から「あの人ばかり優遇されている」というような感情を持たれてしまっては、働きにくくなってしまいます。
そんな中、配慮後の声かけや伝え方に心を配っていらっしゃる方のお話しを聞けて本当によかったです。
どんな立場であれ、「ありがとう」の気持ちとその思いを伝える姿勢が大事だなと改めて思いました。


この記事を書いた人

いうと

感覚過敏研究所 インターン
いうと

感覚過敏研究所では、X(Twitter)運営やセンサリールームやカームダウンボックスなどのコラム作成などを担当しています。感覚過敏の自覚症状はありませんが、所長のビジョンに賛同し、インターンとして参画しています。


この記事を書いた人

jiei kato

感覚過敏研究所 所長
加藤 路瑛

自分の困りごとである「感覚過敏」の課題解決に向き合い、2020年1月に感覚過敏研究所を設立。感覚過敏がある人たちが暮らしやすい社会を作ることを目指し、商品・サービスの開発・販売、感覚過敏の研究や啓発に力を注いでいる。所長挨拶はこちらから

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