
感覚過敏研究所所長・加藤路瑛の母です。今日は、息子の赤ちゃん時代から幼稚園時代の頃の「かびんライフ」をお話してみたいと思います。
誕生

いきなり私のスッピン姿で恥ずかしいですが、はじめて息子を抱っこした日に撮った写真です。小さく生まれた息子は、NICUのある病院へ搬送され、母である私は帝王切開でしばらく入院が必要な状態になり、誕生した我が子を抱きしめるどころか、会うこともできない日が数日続きました。この写真は、誕生5日目にくらいに私が外出許可をもらい、息子のいるNICUに行ったときのものです。
誕生後、直接母乳もあげられず、離れてすごし、夫が毎日撮影してくれるビデオや写真で息子の様子を見るだけの状態でしたので、「もしかして母性がなくなっていたらどうしよう」と不安な気持ちで息子を抱っこしました。母性、残ってました。あの日の感動はもうすぐ14年となりますが忘れられません。
息子は子宮内発育遅延で生まれました。おなかで栄養や酸素がうまく摂取できておらず、妊娠10ヶ月までおなかでがんばってくれましたが1652グラムしかありませんでした。胎盤検査などもしましたが、原因不明でした。おなかの中では低栄養・低酸素・低血糖状態でした。多血症による部分交換輸血などを行いましたが、誕生後は順調に成長してくれ、以後、大きな病気もせずに今に至ります。
息子は小さい頃から食べ物に興味はなく、食事面は本当に苦労しました。悩んで悩んで悩みまくった時に思ったことは、「おなかの中でも栄養をとらずに生きてこれた。彼は燃費がいいのだろう。少ないエネルギーで生きていける、そんな能力を息子は持っている」。そう思うことで、食べない息子への苛立ちや、食事すらまともに子どもに食べさせられない母親としてのダメさ加減をなぐさめようとしていました。
無理やり食べさせる日々

離乳食は嫌がらずに食べてくれていた記憶がありますが、少しずつ食べないことが増えてきたような気がします。それはどちらかというと、食材が嫌というよりも、フォークやスプーンを使って自分で積極的に食べないという感じに思えました。ですから、食べない時は、食べさせてあげていました。それでも、スプーンを口に持っていっても、首をふったり、口をあけないことが多く、ごまかすように、アンパンマンの指人形や仮面ライダーのフィギュアをテーブルの上におき、人形に食べさせるふりをしながら、「次は路瑛の番ね」と言いながら、食べさせてました。戦隊ヒーローや仮面ライダーの人形の威力はすごかったですね。彼らが食べたら、「次は僕が食べる」ということを誤魔化しながらやっていました。

そんな和やかな食卓の日もあれば、戦争のような食卓もありました。人形を使っても食べない日もあります。「あと少し」「あと1口だけ」と言っても食べてくれないこともあります。こちらは、本人が食べられるものと栄養を考えて、工夫しながら作っていたので、全く食べてくれない日はカチンとくる日もあります。
「もう食べなくていいからどこかへ行って」とい言い放ったときもありますし、「いいから食べて」と無理やり口にねじ込んだこともあります。私に余裕がない時は、息子の目の前で、皿ごとゴミ箱に捨てて「もうごはんは作りたくいない」と怒鳴ったり、泣いたりしたことも恥ずかしながらあります。
一生懸命作ったものを食べてくれない苛立ち、そして小さく産んでしまった負い目からどうにかして大きく育てたいという押し付けが私を支配していたのが、ちょうど路瑛の幼稚園時代です。
今振り返ると、どうしてそんなに余裕がなかったのだろうと、息子に申し訳ない気持ちになります。食事中に怒られてばかりでは、食べ物に良い記憶は残りません。もともと食が細い子や興味のない子に無理やり食べさせることは悪循環しか産みませんが、「食べること=成長」という思い込みがありました。

もう一つ、今でも心のひっかかりとして残っていることがあります。3才頃に、ベネッセのしまじろうの絵柄のスプーンとフォークを買いました。プラスティックではなくステンレスのもので、持ち手にはしまじろうのシールが貼られていました。ある日、そのシールが剥がれ落ちて、しまじろうがいないただのスプーンとフォークになったのです。
私は「路瑛がごはん食べてくれないから、しまじろうが出ていってしまったね」と言ってしまったのです。その時の息子のショックな表情や涙は私の後悔の1つです。彼はしまじろうが帰ってくれるように、頑張って食べてくれていました。
そのスプーンとフォークですが、実は中学生になった今でも彼は使っています。小学生になってから、「ねえ、しまじろうは出ていったのではなく、ただシールが剥がれただけだよね?」と私に聞きました。そうだと言うことを伝えましたが、私はまだその件で息子に謝っていませんでした。この記事を書く機会をいただいたので、謝りたいと思う。本当にごめん。
なぜ大きくなった今でも、その小さなフォークを使い続けるのか母も分かっておりませんが、彼の中で食べないことで起きた大きな事件や傷つきだったのだと思うのです。
息子が幼稚園の頃、感覚過敏という名前すら知りませんでした。食べないことはいけないことという思い込みがあり、息子を追い詰めていた時期でした。ゆるやかに、幼稚園も年長さんになるころには、食べない息子のことを私も夫も理解して尊重できるようになりました。そこまでの境地にたどりつくまでの5年間ほどは、息子にとっても辛かったと思います。
親にようやく理解された頃、小学校へと入学し、給食の洗礼を受けることになるのは、また次回お話したいと思います。
味覚過敏とは

感覚過敏研究所が味覚過敏にお悩みの方へできること
-
感覚過敏に関する書籍
感覚過敏に関する書籍
感覚過敏研究所の所長、加藤路瑛の著書。感覚過敏の当事者生と中高生の視点から感覚過敏に関する本を2冊出版しています。
-
味覚過敏に関するコラム
味覚過敏に関するコラム
味覚過敏に関するコラムを発信中です。参考にあるものがあれば嬉しいです。
-
感覚過敏研究所オンラインストア
感覚過敏研究所オンラインストア
味覚過敏缶バッジをはじめ、味覚過敏の方に役に立つ商品を紹介・販売しています。
-
感覚過敏コミュニティ「かびんの森」
感覚過敏コミュニティ「かびんの森」
味覚過敏の仲間がたくさん参加しています。
-
感覚過敏缶バッジ・シール
感覚過敏缶バッジ・シール
味覚過敏缶バッジ、ダウンロードコンテンツを販売しています。味覚過敏の困りごとをさりげなく伝えたり、会話のきっかけにもなります。また、「つけておくと安心」というお守りのような存在にもなっています。お弁当セットにつけておくと安心するお子様もいらっしゃいます。
-
病院が苦手な人のための感覚過敏相談シート
病院が苦手な人のための感覚過敏相談シート
感覚過敏があると病院や歯科医院に行くのも大変です。病院受診の際に相談できる「感覚過敏相談シート」を作成し、無料公開しています。どなたでもダウンロードしてご利用いただけます。
-
教育機関(学校)向け感覚過敏相談シート
教育機関(学校)向け感覚過敏相談シート
感覚過敏研究所では、保護者の方がお子様の感覚過敏について学校に相談する時に使用できる「感覚過敏相談シート」を作成し、無料公開しています。どなたでもダウンロードしてご利用いただけます。給食に関する相談にもご利用いただけます。
-
感覚過敏あるある漫画
感覚過敏あるある漫画
感覚過敏研究所がお届けする感覚過敏あるある漫画。毎月10日に1話、インスタグラムとXで公開しています!「あーわかる」「それそれ」「あるある」と読んでいただけると嬉しいです。
-
お知らせ
お知らせ
感覚過敏研究所の取り組みのお知らせや、メディア出演、イベント登壇など、さまざまな活動報告や事前情報を発信しています。感覚過敏の情報は少ないため、感覚過敏に関するポータルサイトを目指してします。
-
加藤所長のX(旧Twitter)
加藤所長のX(旧Twitter)
所長のXアカウントでは感覚過敏の情報発信だけでなく、当事者の方々や支援者との意見交換の場面も多く、生の声に触れることができますのでフォローをおすすめしています。感覚過敏研究所のアカウント もフォローください!
-
メルマガ配信
メルマガ配信
感覚過敏研究所の取り組みやお知らせをメールでお届けしています。不定期です。